⑬香港(または海外)に移住(永住)した日本人の海外相続
更新日:2020.6.24
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目次
海外に移住(永住)している日本人は『ドミサイル=本拠地』が日本にない
日本人の中には駐在や一時滞在として香港に住んだことをきっかけに銀行口座等の香港財産を持つ場合があります。
しかし中には日本という故郷を離れて、香港又は外国に移住(永住)された方が香港財産を持つ場合もあります。
そのように海外移住した方が亡くなった場合、そうでない日本人の場合と比べて香港での相続手続きに何か違いはあるでしょうか?
結論から言いますと、日本と香港(又はその他外国)どちらに、『本拠地(Domicile)』(ここでは「ドミサイル」といいます。)があるかで、手続きが異なります。
『ドミサイル』とは要するに「終の棲家と決めた場所」
『ドミサイル』とは、英米法の法律用語ですが、詳細を省いて簡単に言うと、『ある人にとっての「終の棲家(ついのすみか)」といえるような世界で一つの場所』のことです。
日本で言うところの「住所」(民法22条)と似ていますが、正確には違います。
『住所』よりもう少し狭い意味で、自分にとっての「本拠地(地元)」のようなものです。
テーマ⑨では仮で「本拠地」として訳しています。
不動産以外の香港財産の相続について、亡くなった人の死んだ時点でのドミサイルが日本にある場合、香港の裁判所は日本の法律に従ってプロベートを行います。
(正確には「プロベートを行う人格代表者を決めます」というべきですが、ここでは略します。)
ドミサイルが香港にある場合、香港の法律によってプロベートを行います。
ドミサイルが香港以外の外国にある場合、その外国の法律によってプロベートを行います。
ドミサイルが日本と香港どちらにあるかで関係する法律が変わる
故人のドミサイルが香港にある場合、たとえ故人が日本人であっても香港法でプロベートします。
このため、そのような故人についてのプロベートは香港法しか関係しないので香港の弁護士だけでプロベートを進めることができます。
日本の弁護士の関与は不要になります。
これに対し、故人のドミサイルが日本にある場合、香港のプロベートでも日本法が関わることになります。
このため、日本の弁護士の関与が必要になります。
したがって、香港の弁護士費用に加えて、日本の弁護士費用も必要になり、プロベートの弁護士費用が高くなってしまいます。
海外に移住していない日本人は、おそらく『ドミサイル=終の棲家』がいまだ日本にあることになります。
「海外に移住する」≒「海外にドミサイルがある」
香港(又は海外)に移住した日本人は、その人の移住の形態、移住の意図によって、ドミサイルが日本にあるのか、香港(又は海外)にあるのか、場合ごとの判断が必要になります。
亡くなってしまった故人の意思を確認する術はないので、亡くなった方のドミサイルがどこにあったのかは、故人の客観的生活状況から推測するしかありません。
具体的にはドミサイルは、
・香港の永住権を持っているか、
・香港にアパート・持ち家で居住しているか、
・香港に家族や友人などの人間関係があるか、
・香港に仕事や子供の学校のために居住する必要があるか、
・将来日本に戻る予定があるか、
などいろいろな要素で判断されます。
『1年のうちの滞在日数』など、ひとつの分かりやすい指標で判断することができない、あいまいな概念です。
「国籍=ドミサイル」ではない、ケースバイケース
国籍があるかどうかは一つの要素ですが、ドミサイルを決める決定打ではありません。
なお、香港や英米法の国では、日本と違って二重国籍を容認している国が結構あります。
一人の人間が多数の国籍を持っているケースがあるので、単純に「国籍=ドミサイル」とは判断しないのです。
単に「香港に移住する」といっても、
そこに一生住み続ける意思を持って移住するのと、単に会社の辞令で一時的に駐在するのでは意味が違います。
前者であれば「ドミサイルが香港にある」といいやすいですが、
後者であれば「ドミサイルは日本にある」といいやすいでしょう。
結局のところドミサイルがどこになるかはケースバイケースになります。
各種の事情を説明した上で、担当する香港の弁護士によってドミサイルが香港なのか日本なのか、を判断してもらうのがいいでしょう。
以上のとおり、
日本人の香港財産の相続手続きをする場合、香港でのプロベートを始めるにあたって
「前提として故人の『ドミサイル』がどこにあるか」
を考える必要があります。
ドミサイルが香港ならば、香港の弁護士だけでプロベートが進められます。
ドミサイルが香港以外(日本など)にある場合、香港以外の国の弁護士を雇う必要があります。
ドミサイルはいろいろな事情によって判断されますので、ドミサイルがどこになるか、は香港の弁護士に判断してもらうのがいいでしょう。
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