日本人弁護士(日本・香港・NY州)による国際相続・海外企業法務

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日本人弁護士(日本・香港・NY州)による
香港財産相続・海外企業法務
香港(永住権保有)在住・日本人弁護士による国際企業法務・相続・資産管理

香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
国際相続の極意

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㉕事例紹介:使いやすくなった自筆証書遺言(外国居住者の例)

更新日:2021.9.26

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今回からしばらくは海外居住者や国際相続のかかわる事例の紹介をしていきたいと思います。
先日私が担当した案件で自筆証書遺言保管制度を利用しました。
今回は海外に住む日本人が日本に一時帰国した際に遺言を作成・保管した、という特殊な事情があります。その際にいくつか気づいた点がありますので、今回はその件について書きたいと思います。

【事例の紹介】

依頼者は米国在住の日本人です。日本に一時帰国している際に日本で遺言を作成することにしました。
現在米国人の配偶者がおり(子供は無し)、日本国内に有する財産を全て米国人配偶者に相続させたいと考えています。
依頼者は、それぞれ日本と米国に不動産と預貯金を持っていました。

海外にも財産がある場合、遺言をそれぞれの国ごとで分けて作る

本件のように、遺言者が日本と海外に財産を持つケースでは、まず遺言の対象となる財産の範囲を決めなければなりません。
海外(米国)の財産については、遺言を作ったとしてもプロベート(Probate)という裁判所を通じた遺言執行人の任命手続を避けることができません。

そこで、日本の財産のみについての「日本の方式の遺言」をつくり、それとは別に米国で米国の財産のみについての「米国の方式の遺言」を作ることにしました。

今回のケースでは、依頼者の都合により日本の財産だけを対象とする日本の遺言を作成することになりました。

そこで、日本の遺言の文面に「この遺言書は私の日本国内にある財産のみを対象とするものである」ということをはっきりと明言しておきました。
後で米国で別に遺言を作る際にも同様に「この遺言書は私の米国内にある財産のみを対象とするものである」と記載するように助言しておきます。

このように遺言自体に「対象となる財産の範囲」をはっきり書いておかないと、日本と米国の遺言書相互で対象財産が重複してしまうことになりかねません。
遺言ではっきり「対象となる財産の範囲」を記載しておかないと、作成者の死亡後に遺言を読んだ人が混乱してしまいます。
その結果、遺言の内容について紛争が生じたり、遺言作成者の意思の通りに遺言が執行されなくなってしまうリスクがあります
また、不明確な遺言があると米国のプロベート手続に支障をきたしかねません。

モニュメントバレー(米国)

自筆証書遺言 vs 公正証書遺言

次に、日本の方式の遺言の作り方を検討します。「日本の方式の遺言」の作り方には大きく分けて、
  ①自筆証書遺言
  ②公正証書遺言

  ③秘密証書遺言
の三つがあります。通常のケースで使うのは①自筆証書遺言か②公正証書遺言のいずれかとなります。

従来は公正証書遺言が使われることが多かったのですが、
 ・2019年から自筆証書遺言の方式要件が一部緩和されたこと、
 ・2020年から「自筆証書遺言保管制度」が開始されたこと
等の理由もあることにより、最近では自筆証書遺言の利用が増えております。

この点、自筆証書遺言の方式要件緩和のリンク「自筆証書遺言保管制度」のリンクを参照すると分かりやすく説明されています。

今回の依頼者のケースでも諸事情を考えて、自筆証書遺言を作り、さらに「自筆証書遺言保管制度」でその遺言書を法務局に保管するのが良いと判断しました。

「自筆証書遺言+保管制度」のメリット

自筆証書遺言と「自筆証書遺言保管制度」のメリットを簡単に言うと次の通りです。

まず、自筆証書遺言をこの保管制度によって遺言書を法務局に保管した場合、公正証書遺言と同様に遺言者の死亡後に家庭裁判所での遺言書の検認手続が不要となります。
このため、遺言者が亡くなった後の遺言執行手続きが非常に簡便になります。

また、法務局に厳格に保管されていることにより、遺言書の保管場所に困ることもなくなるし、遺言書を紛失・破損したり、第三者に勝手に作り替えられてしまうリスクがなくなります

また、自筆証書遺言は自分自身で作れるため費用も掛かりませんし、「自筆証書遺言保管制度」による法務局への保管費用も3900円と非常に安価です。
これに対して、公正証書遺言は遺言の対象となる財産の価額について、下表の通り、一定割合の報酬を公証人に支払わねばなりません

財産が多額になる場合は「自筆証書遺言+保管制度」を利用したが圧倒的に安価です。

遺言の対象とする財産の価額公証人の手数料
100万円以下5,000円
100万円超~200万円以下7,000円
200万円超~500万円以下1万1,000円
500万円超~1,000万円以下1万7,000円
1,000万円超~3,000万円以下2万3,000円
3,000万円超~5,000万円以下2万9,000円
5,000万円超~1億円以下4万3,000円
1億円を超え、3億円まで5,000万円ごとに1万3,000円が加算。 
3億円を超え、10億円まで5,000万円ごとに1万1,000円が加算。
10億円を超えた場合、5,000万円ごとに8,000円が加算。   
アンテロープキャニオン(ネバダ州・米国)

依頼者は日本に多数の収益不動産と多額の金融資産を持っていたので、公正証書遺言を作成した場合、公証人費用が高額になってしまうことが分かりました。
遺言書作成になるべく費用をかけたくなかったため、今回は「自筆証書遺言+保管制度」を利用することにしました。

「死亡後通知」が公正証書遺言にはない「自筆証書遺言保管制度」の有利点

更に、「自筆証書遺言保管制度」では「死亡後通知」制度があります。

これにより、将来遺言作成者(依頼者)が死亡した場合に、法務局から推定相続人、受贈者又は遺言執行者に対して遺言が保管されていることを通知するように予め指定できます。

この「死亡後通知」は公正証書遺言にはない、「自筆証書遺言保管制度」特有の便利な制度です。
依頼者はこの「死亡後通知」を使うことにより、自分が亡くなった後法務局から米国人配偶者に通知されるように手配することにしました。

さらに言うと、「死亡後通知」は日本国内のみならず、海外の住所にも通知できるのが特徴です。

法務局に自筆証書遺言の保管申請書を提出する際、通知先の海外住所を英語(アルファベット)で備考欄に記載することで外国の住所への「死亡後通知」を登録できます。
詳しいやり方は、保管申請を受け付ける各法務局の窓口でも教えてくれます。

「全文自筆」の要件が一部緩和され、自筆証書遺言が使いやすくなった

自筆証書遺言の主なデメリットは、遺言書の全文を遺言作成者が自分で手書きして日付を記入し、署名押印しなければならないことです。

遺言書の一部を書き間違えた場合、間違え部分の訂正についてもやり方が決まっています。
これらの作成方法、訂正方法を間違えると遺言が無効になりかねないので、作成時には十分注意が必要です。

例えば、全文手書きで書くのが大変だからと遺言の一部をワープロ打ちにしたり、日付を書き忘れたりすると遺言全体が無効になりかねません

たとえ「付言事項」(例えば家族への伝言や葬儀や埋葬の仕方についての指定をする場合に使われます)のような、財産の処分方法とは関係ない記載部分であっても、ワープロ打ちにすると様式不備で遺言書全体が無効となりかねません。

自筆証書遺言には色々と分かりにくいリスクがあるので、自筆証書遺言を作成するときには必ず弁護士や司法書士などのアドバイスを受けながら慎重に作成することをお勧めします

他方で、自筆証書遺言であっても遺言の対象とする財産目録については、ワープロ打ちの文書を添付することで足り、自筆する必要がありません。この点は民法改正(民法958条2項)で2019年に新たに導入された制度です。

ワープロ打ちで目録を作ってもいいし、銀行口座の通帳の裏表紙や登記簿のコピーを添付する形でも構わないとのことです。

これにより、遺言書本文には「別紙財産目録1の不動産を○○に相続させる」などと自筆で記載するだけでよくなります。これにより、自筆で書く部分が減りますから、自筆証書遺言の作成の手間が軽くなりました。

なお、この方法による場合には、別紙財産目録の各ページにも署名押印が必要です。
また保管制度との関係では、遺言書本文と別紙財産目録部分を通しでページ番号を記載しなければならない、という要件もあります。
しかしこれらの要件をクリアするのは、さほど難しいことではありません。
いずれにしろ別紙目録の手書きの負担がかなり減ることになったので、自筆証書遺言が相当使いやすくなりました

依頼者はまだまだ自分で遺言を書けるほど元気でしたので、私(弁護士)の助力を得て下書きを作ったうえで、これを元に手書きで清書して自筆証書遺言(+別紙物件目録)を完成しました。

海外居住者特有の注意点

なお、法務局への自筆証書遺言の保管申請は、弁護士等の代理人で行うことはできず、遺言作成者ご本人が申請のために法務局に行かなければなりません

また、遺言書を保管する法務局は、
 ①遺言作成者の本籍地
 ②遺言作成者の住民票上の住所地
 ③(遺言の対象に不動産が含まれる場合)不動産の所在地

を管轄するいずれかの法務局
にしなければなりません。

注意が必要なのは、①本籍地の法務局、又は③不動産所在地の法務局、いずれかに遺言を保管する場合でも、遺言作成者の「海外の住所」の証明書を添付書類として出さなければならないことです。

海外居住者の場合は基本的に日本に住民票が無いですし、海外の在留証明書を日本にいながら取り寄せるのは容易ではありません。そこで、公証人役場で宣誓認証の形で自分の「海外の住所」を証明する文書を作ってもらうことが必要になります。

住所証明を作るためだけにわざわざ公証人役場に行くのも手間でしたので、本件の依頼者は一旦日本に住民票を入れることで対応することにしました(帰国時に再度住民票を抜いてから帰国しました)。

これらの点も事前に準備し、必要書類手配を整えたうえで依頼者本人が法務局に保管申請に行きました。
ネットで日時を予約し、当日は遺言の形式面等のチェックに1時間ほどかかりましたが、ご本人で無事に法務局に保管することができました。
保管申請には時間に余裕を持っていかれることをお勧めします。

本件の依頼者は保管も完了したので安心して米国への帰途に着かれました。

以上を分かりやすくまとめて言うと、、、

自筆証書遺言はいくつかの面倒はあるものの、新たに導入された自筆証書遺言保管制度のおかげで、公正証書遺言と比べてかなり使いやすくなっております。
 費用が圧倒的に安いこと、
 「死亡後通知」が利用できること、
 家庭裁判所での検認手続がいらないこと

など多くの利点があります。

また財産目録をワープロ打ちで代替できるようになるなど、全文を自筆で書かなければならない自筆証書遺言のデメリットも小さくなりました。海外居住の方にも死亡後通知が使えるなど、公正証書に勝る利点もあります。

デメリットを上回るメリットがあると思いますので、ぜひご利用を検討していただければと思います。

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