㉖事例紹介:遺言執行者をだれにすべきか?(外国居住者の例)
更新日:2021.9.27
前回のテーマ㉕(外国居住者が日本で遺言を作る場合の注意点)の事例紹介に続き、外国居住者が日本で遺言を作る場合に遺言執行者を誰にしたらいいか、どういった点に注意したらいいかについて、いくつか気づいた点がありますので解説したいと思います。
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目次
【事例の紹介】
依頼者はシンガポール在住の日本人です。
現在、シンガポール人(同地在住)の内縁の配偶者がおり(子供は無し)、
日本国内に有する財産(収益不動産・金融資産)を全てシンガポール人の内縁配偶者に遺贈したいと考えています。
なお、ここでは、日本国内の財産について日本の遺言を作ることを前提に考えることにします。
登記手続きを見越して遺言執行者の指定が必要
遺言を作成する場合、当然ながら、作成者が亡くなった後にその遺言に従って財産が適切に承継・名義移転されなければなりません。
特に、対象となる財産に不動産が含まれる場合、遺言に従ってその不動産の名義移転登記をしなければなりません。
ところが、もしも遺言執行者を指定していないと、不動産の遺贈を受けた受贈者が、所有権移転登記をするために他の法定相続人とともに登記手続きを申請しなければなりません。
しかし、ただでさえ遺言によって財産を相続できなくなってしまい不満がある法定相続人たちが、遺言で遺贈を受けた(赤の他人の)受贈者への移転登記に積極的に協力するとは思えません。
さらに、その受贈者が被相続人の内縁の配偶者だった場合には、感情的に協力したくないという法定相続人がいる可能性もあります。
他方、遺言執行者を指定していれば、遺言執行人と受贈者だけで不動産の名義移転登記ができます。
法定相続人の協力なくして移転登記ができるので、手続きがはるかにスムーズに進められます。
したがって、家族(法定相続人)以外に日本の不動産を遺贈しようとする場合、後々の登記手続における面倒(受贈者と相続人の対立)を避けるため、遺言執行者を予めしておくことが必須と言えるでしょう。
これは外国人や海外の居住者への遺贈だけに限らず、日本国内居住者や日本人へ遺贈でも同様です。
このように、遺言を作る際には、財産を受け取った人がその遺言に従って名義移転登記がスムーズにできるか、というところまでしっかり考えて作ることをお勧めします。
遺言執行者をだれにするか?
では次に、遺言執行者として誰を指定すべきでしょうか?考えられる選択肢としては次の二つがあります。
①弁護士・司法書士などの専門家を遺言執行者に指定する
②受贈者自身を遺言執行者に指定する
(※なお、不動産登記の観点から言うと、遺贈者と遺言執行者が同一人物であっても問題なく名義移転登記をすることができます。)
ここでは①、②のどちらが望ましいかの答えは出しません。いずれを選択してもいいと思いますが、次の各点を考慮に入れていただければと思います。
①遺言執行者を『専門家』にする場合
遺言執行者として、特定の弁護士又は司法書士などの専門家を指定しておくことの有利・不利は以下の通りです。
まず、彼ら専門家は法律又は登記の専門家ですので、相続人、受贈者いずれの立場にも偏ることなく、中立公正な立場で遺言執行を行うので、信頼して任せることができます。
他方で、専門家には費用が掛かります。
専門家を遺言執行者に指定する場合、通常は遺言執行の報酬を遺言に定めておく必要があります。
自筆証書遺言の場合、報酬の定めを手書きで遺言に書きこまなければならないので、遺言作成の手間が若干増えてしまいます。
また、報酬金額をどのようにするか決められないと遺言作成がなかなか進められなくなってしまいます。
なおこういった時の一つの方法としては、「遺言執行者の報酬は○○法律事務所の報酬規程による。」などと簡潔に書く場合もあります。具体的な記載の仕方は、遺言執行者となってくれる専門家にアドバイスしてもらったらいいでしょう。
また、遺言執行者を専門家に指定した場合のデメリットは、受贈者が原則として遺言で指定された遺言執行者を自分の意思で変更することはできないこと(「任務の懈怠」など一定の理由があれば家庭裁判所に申し立てて解任することができます(民法1019条1項))です。
したがって、受贈者が遺言執行者である専門家に個人的に不満がある、連絡が取りづらい、言葉(外国語)が通じないという理由だけでは遺言執行者を変更することができません。
受贈者が外国人だったり海外居住者である場合、日本語が分からないため遺言執行手続きに不安を持つことがありますが、遺言執行者となった専門家との意思の疎通が重要な問題となります。
そうした場合、受贈者の側に「自分が信頼する(外国語ができる)専門家に任せたい」というニーズがあることが予想されます。
遺言で遺言執行者を特定の専門家に指定してしまうと、のちのち受贈者が自由に遺言執行者を変更できなくなってしまう点がデメリットと言えばデメリットです。
②受贈者自身を遺言執行者にする場合
これに対し、受贈者自身を遺言執行者に指定する場合はどうでしょうか?
受贈者が同時に遺言執行人にも指定された場合、「遺言執行者としての責任」を自ら負わなければなりません。
しかし、遺言執行者は「復任権」によって弁護士・司法書士等の専門家を遺言執行者の代理人とすることができます(改正民法1016条1項)。
遺言執行者としての責任を自ら負いますが、専門家の助言や支援を受けつつ遺言執行手続を行えば、安心して遺言執行手続を進めることができます。
また、「復任権」で依頼した専門家はあくまで遺言執行者の代理人ですので、自分で気に入った代理人を選ぶことができますし、一旦決めた後も気に入らなければ遺言執行者の自由な意思で解任・変更できます。
つまり、相性が合わないとか、連絡が取りづらいなどの不満があったら、遺言執行者(兼受贈者)は自己の判断で代理人を別の専門家に変更することができます。
したがって、遺言で特定の専門家を遺言執行者に指定した場合と比べ、受贈者を同時に遺言執行者に指定しておくと、遺言執行者(兼受贈者)は遺言執行時に専門家の選択を自由にできることになります。
なお、遺言執行者の代理人として専門家に依頼する場合には、報酬を支払う必要があります。
この点もあくまで遺言執行者(兼受贈者)と専門家の間で合意で決めればよいのです。遺言の中で報酬について予め定めておく必要はありませんし、委任契約をする前に遺言執行者(兼受贈者)が専門家から報酬の説明を受けて合意をすればよいので、報酬の規定をめぐって事後にトラブルになることが避けられます。
遺言執行と外国人・外国居住者特有の問題
なお、外国人や外国居住者が日本国内の財産(特に収益不動産)の遺贈を受けると、名義移転登記以外にも、
①相続税の申告・納税、
②収益不動産の賃貸契約の変更、
③不動産管理会社との手続や賃料払込口座の変更
など、様々な手続きを日本で行わなければなりません。
また、受贈者は、遺留分権利者(法定相続人)らから遺留分侵害額請求(改正民法1046条1項)を受けた場合に対応しなければならないなど、法律的に難しい立場に立たされる可能性があります。
このように、外国人や外国居住者に日本国内の財産を遺贈すると、日本国内の法律、税務、登記、など多分野にまたがる難しい問題の処理が必要になってきます。
外国人や外国居住者が海外にいながらこれらの日本の手続きを安心して進めるには、適切な専門家(弁護士、司法書士、税理士等)を雇い、日本の制度について外国語で説明を受ける必要があります。
したがって、こういった外国語で日本の制度を説明したり、日本の各分野の専門家を手配できるような「ゲートキーパー的な専門家」を、受贈者のために予め見つけておくことも大事です。
遺言書の中に、そういった専門家の名前と連絡先を記載しておくといいでしょう。
遺言作成者が亡くなった後、受贈者がすぐに専門家に連絡を取って適切に手順を進めることができるようになります。
手前みそになりますが、私のような「国際弁護士」は、日本と海外の双方にまたがる問題、日本国内の多分野にまたがる問題の交通整理や、国内外の多種の専門家の手配、コーディネートに強みを有しております。
外国人(外国居住者)宛に財産を残したい、遺言を作りたいと考えている方は、ぜひ一度ご相談してみてください。
分かりやすくまとめて言うと、、、
海外居住者や外国人に日本国内の財産を遺贈しようとする場合、
① 遺言で遺言執行者を指定しておくこと
② 受贈者が遺言執行手続きをしやすいような遺言執行者を選ぶこと(場合により受贈者を遺言執行者に指定すること)
③ 受贈者が国際相続に通じた専門家にアクセスしやすいように連絡先を書いておくこと
が重要です。
皆様も遺言を作成する際に上記を参考にしてみてください。
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