⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
更新日:2020.6.24
海外の相続手続きをする場合、日本の相続制度と、日本以外の海外の相続制度の違いをある程度理解しておく必要があります。
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目次
英米法の国では相続にプロベート(裁判所関与)が不可避
私は、海外の国でも特に『香港を含めた英語圏(英米法)』の相続手続きを専門にしています。
以下では、日本と英語圏(英米法)の国の相続制度の違いを説明します。どちらかというと専門家向けですので、特に興味がない方は読み飛ばしていただいて結構です。
日本と英語圏(英米法)の相続制度の違いを簡単に言うと、次のとおりです。
日本(民法)では、被相続人が亡くなると相続財産は『自動的に』相続人全員に受け継がれ、特に何の手続きもせずとも相続人全員で共有されます。
つまり、自動的に相続人の共有になるので、原則として裁判所の関与を介さずに遺産分割協議で相続人の間で分配できます。
しかし香港を含む英米法では、被相続人が亡くなっても相続財産は自動的に相続人に承継されません。
英米法では、相続人が相続財産を受け継ぐ前に『相続財産管理(Administration of Estate)』という、一種の会社の破産管財に似たような相続財産の清算手続(Administration)を踏まえなければなりません。
相続財産の『管理手続』は『破産管財人の管財手続』に類似
この『相続財産管理』の過程で、人格代表者といわれる一種の財産管理人が『管理手続(Administration)』すなわち、
- 被相続人のプラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)を回収・弁済し
- 遺産税(Estate Tax≒相続税)を納税し(但し香港、シンガポールなど遺産税がない国も結構あります)
- その後に残った財産を相続人に承継・分配します。
英米法で相続財産管理をする人のことを『人格代表者(Personal Representative)』といいます。
死後の故人の財産はこの『人格代表者』が裁判所から権限を与えられて、上の1から3の『管理手続(Administration)』を実施します。
遺言があれば、相続財産の各相続人への承継や分配の仕方を被相続人が生前に決めることもできます。遺言がある場合には、遺言執行者が『人格代表者』になります。
遺言がなければ、相続財産の分配についての法律規定や相続人間の合意によって承継・分配されることになります。
しかし、遺言が有ろうとなかろうと、裁判所で人格代表者を選任する手続き(プロベート)(プロベートについてはテーマ⑧、テーマ⑨、テーマ⑩も参照)が必要になります。
英米法では『相続人全員』ではなく『人格代表者』が相続手続きを進める
以上のとおり、日本では『死亡により当然に』相続財産の権利が『被相続人から相続人へ一発』で『自動的』に受け継がれます。
これに対し、英米法では『死亡で自動で権利が承継されず』かつ、被相続人から相続人への承継する間に『人格代表者』による『相続財産管理』のプロセスが介在しています。
この人格代表者を任命するためには裁判所の関与が必要なので、相続財産は『自動的』には受け継がれません。
日本 | 被相続人⇒①相続人に承継(自動的) |
英米法 | 被相続人⇒①人格代表者による相続財産管理⇒②相続人(裁判所関与必須) |
英米法相続では遺言の有無に関係なく『人格代表者』の任命をするプロベート(Probate)が必須
さらに続けますと、
遺言がない場合、日本では原則として相続人全員で遺産分割協議書を作成するだけで「裁判所の関与なしで」相続手続きを完了できます。
遺言がない場合、英米法(香港含む)では、人格代表者がこの相続財産管理に行うために、裁判所によって権限を認めてもらう手続き(これを『プロベート(Probate)』といいます)が必須になります。
『プロベート』手続の意味を簡単に説明すると、裁判所が相続財産管理を進めるための正当な権限を人格代表者に与える(又は認める)手続きです。
人格代表者は裁判所から認められて初めて、相続財産を適切に『管理』(回収・弁済し、残った財産を相続人に分配すること)正当な権限が持てるのです。
プロベートは遺言がある場合でも遺言がない場合でも同様に必要です。
遺言が無い場合は遺族の誰かが遺産管理人(人格代表者)となる
遺言がない場合はご遺族のうちどなたかが遺産管理人(Administrator)として裁判所に申し立ててプロベートをしなければなりません。
遺言がある場合、遺言で指名された遺言執行者(Executor)などが裁判所に申立ててプロベートをします。
したがって遺言があろうとなかろうと、英米法の相続手続きではプロベート(裁判所の関与)が欠かせないのです。
英米法の相続手続きが日本と違って時間がかかるのは、裁判所でのプロベート手続きが必須だからです。
以上のとおり、英語圏(英米法)では、日本と違い、相続財産が被相続人から相続人に自動的に承継されないこと、相続手続きにおいて裁判所でのプロベート手続きが必須であること、を説明しました。
プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)
香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)
プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)
海外の信託(Trust)に関する記事はこちら↓
㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~
㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
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