日本人弁護士(日本・香港・NY州)による国際相続・海外企業法務

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日本人弁護士(日本・香港・NY州)による
香港財産相続・海外企業法務
香港(永住権保有)在住・日本人弁護士による国際企業法務・相続・資産管理

香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
国際相続の極意 Inheritance Laws in Japan

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国際相続の極意contents-inheritance

⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)

更新日:2020.6.24

前回テーマ⑦では、英語圏(英米法)では被相続人から相続人に自動的に承継されずプロベートが必須であることを説明しました。
今回は、英米法のプロベートについてもう少し掘り下げて説明します。今回もどちらかというと専門家向けですので、興味がない方は読み飛ばしていただいて結構です。

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財産が所在する各国ごとにプロベートをしなければならない

英米法では相続手続に必ずプロベート手続が必要ですが、更に言うと、このプロベート手続は『財産が所在する全ての国・州や地域(より正確には「法域=Jurisdiction」)ごと』にそれぞれ行わなければなりません(以下では「法域」を単に「国」といいます)。

つまり、
 ・香港にある財産相続については香港のプロベートが必要であり、それとは別に
 ・シンガポールにある財産相続についてはシンガポールのプロベートが必要になるのです。

そのほかの英米法の国もすべて同じです。
要するに、財産が複数の国にまたがっている場合は全ての国でそれぞれプロベートをしなければなりません。

プロベートはただでさえ面倒なのに、各国でそれぞれプロベートをしなければならないのは輪をかけて面倒です。

これは海外にある日本人の相続財産であっても当てはまります。
日本人が各国に財産を残して亡くなると、財産が所在する国ごとに何度もプロベートをしなければなりません。

こういった面倒なプロベートを回避する技術としてジョイントアカウント(テーマ⑫参照)や信託(Trust)
テーマ⑲参照)がありますが、この点の解説は別の回に譲ることにします。

浦東高層ビル群(上海、中国)
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日本の通則法36条(相続は本国法)は関係ない

ところで、日本の通則法36条では「相続の準拠法は本国法とする」としております。

そこで、「日本の通則法36条によると、日本人の相続については本国法(=日本法)だけが適用される。
だから、日本人には各国ごとのプロベートは不要なのではないか」という議論をする向きもありますが、これは間違っています

英米法では相続財産管理(Administration of Estate)相続財産の承継(Succession of Estate)は異なるフェーズの問題です

テーマ⑦で説明したとおり、日本法と英米法では、相続制度が根本から異なります

日本ではではそもそも英米法の『相続財産管理(Administration of Estate)』に対応する概念がありません

このため、そもそも日本の通則法36条で「相続の準拠法は本国法とする」としている『相続』とは、『相続財産管理(Administration of Estate)』のフェーズの話なのか『相続財産の承継(Succession of Estate)』のフェーズの話なのか、文面からは判然としません。

理論はどうあれ、実務上はプロベートが要求される

しかし、現実の英米法実務では、相続財産の相続手続を適切に実行するためには、財産が所在する国(法域)の裁判所でプロベートをしなければなりません。
日本法と英米法の違い、といった理屈はどうあれ、実務ではプロベートをしないでは銀行口座の払戻もできず、不動産の名義移転もできません。

これは死亡した故人の国籍がどこであろうと、またその本国法(仮に故人が日本人なら通則法36条)が何と規定しようと関係ありません

英米法実務では、日本の通則法36条の「相続」は、どちらかというと「相続財産の承継(Succession of Estate)」のフェーズの問題ととらえており、「相続財産管理(Administration of Estate)」とは関係ない問題ととられているように思われます(あくまで私見ですが)。
このため、日本の通則法36条で 「相続の準拠法は本国法とする」 と規定しているとしても、英米法現地の裁判所では、現地の法律に基づいてプロベートを必要とする、という見解を取っているのだと思われます。

これは、私なりの理解による一応の説明ですが、この辺の正確な理屈については実務をしている私もはっきりとはわかりません。

いずれにしろ、日本人だろうとその他の外国人だろうと、英語圏(英米法圏)に相続財産がある場合は、その国ごとでプロベートをしなければならないというのが現実です。

日本人で「海外に財産を持っている方」というと、一般的には英語圏(香港、米国やシンガポールなど)に財産を持っている方が多いと思います。
財産がある国ごとでプロベートしなければならないと、遺族が相続手続きをするために時間・費用・手間の関係で非常に難儀しますので、非常に注意が必要です。

だからこそ、テーマ⑲で話す通り、生前相続対策をしておくことが重要なのです。

以上のとおり、英米法での相続手続きでは財産が所在する全ての国ごとにプロベートをしなければならないことについて説明しました。

テーマに戻る テーマ⑨に進む 一覧に戻る

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プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
 ⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
 ⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)

香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
 ⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
 ⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
 ⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
 ㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)

プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
 ⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
 ⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
 ⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
 ⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)

海外の信託(Trust)に関する記事はこちら↓
 ㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
 ㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
 ㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~
 ㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
 ㉙裁量信託の意向書(Letter of Wishes) に書き込む内容について

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