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香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
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㉙裁量信託の意向書(Letter of Wishes) に書き込む内容について

更新日:2022.4.5

前回のテーマ㉘は、海外信託のうち「裁量信託(Discretionary Trust)」を作る際に必要となる「意向書(Letter of Wishes)」について説明しました。
今回は、「意向書(Letter of Wishes)」には具体的にどういった内容を書くのかについて説明していきたいと思います。

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海外の信託(Trust)に関する他の記事はこちら↓
 ㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
 ㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
 ㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~ 
 ㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
 ㉚裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)の活用法

裁量信託の意向書(Letter of Wishes)の形式は特に決まっていない

前回のテーマ㉘で書いた通り。そもそも、日本人にとっては海外の裁量信託(Discretionary Trust)や意向書(Letter of Wishes)というものはあまりなじみがありません。

また、意向書(Letter of Wishes)は、そもそも公開することが予定されていない文書ですから、意向書の文案を見たことある人はほとんどいないでしょう。
意向書は遺言書と違って一般的な契約文書ではないですから、インターネット検索等でも文案や書式を探すことは困難です。

しかし、意向書の形式や書くべき内容についてあまり深く考える必要はありません。
要するに「裁量信託で広い裁量権をもっている受託者(Trustee)に対して、信託財産を管理・処分する方針を伝えることが、意向書(Letter of Wishes)の役割です。

意向書(Letter of Wishes)を書く目的は『裁量信託を設定する人=委託者兼当初受益者』の意向を受託者に正確に伝えることにつきます。

そこで、委託者兼当初受益者に将来起きる可能性のある具体的な事情を想定して、受託者に明確に伝わるように意向書を書いていくことになります。

なお同じ位置づけの文書のことを、『意向書(Letter of Wishes)』以外にも『Trustee メモ(Trustee Memorandum)』などと言ったりすることもあります。タイトルはどうあれ、要するに「信託契約書と同時に作るサイドレター(覚書)のようなもの」である場合、意向書についての以下の記載が当てはまります。

まずは委託者兼当初受益者が死亡した後の受益者について規定する。

テーマ⑲で説明した通り、海外信託(裁量信託を含む)の一つの目的はプロベート(テーマ⑮ テーマ㉓を参照)を回避することにあります。

遺言書と違い、信託(Trust)は裁判所でプロベートの手続をすることなく、財産に関する受益権を後継者に代々承継させることができる制度です。

したがって、委託者兼当初受益者は、自らが亡くなった場合、次に誰が信託の受益権を受け継ぐことができるのか(次順位受益者)を決めておく必要があります

ところで「裁量信託」では一般に『信託契約書』において次の受益者を指定することができません。
なぜなら、『信託契約書』で次順位受益者を指定したらそれは受託者の裁量を法的にこうすることになってしまい、「裁量信託」ではなく、「固定信託(Fixed Trust)」になってしまうからです。

「裁量信託」では、信託契約書の規定上も「次の受益者が誰になるか」について『受託者の裁量』に任されていなければならないのです。

このような裁量信託では、「法的拘束力がある信託契約書」ではなく、「法的拘束力がない意向書(Letter of Wishes)」によって、委託者兼当初受益者が次順位の受益者を指定しておく形をとります。

意向書(Letter of Wishes)は法的な拘束力がない文書であり、あくまで「委託者兼当初受益者」の意向・希望を受託者に伝える意味しかなく、受託者の裁量を制限することにはならないからです。
信託契約書と意向書の関係は前回書いた通り、一般的によく見かける「契約書とそのサイドレター(補足の覚書)」のような関係に近いでしょう。

少し技巧的に見えるかもしれませんが、裁量信託の形式的な要件を守りつつ、次世代の受益者をある程度予測可能にするために意向書(Letter of Wishes)の存在が必要となるのです。

このように、意向書(Letter of Wishes)においては、ほぼすべての場合に委託者兼当初受益者が死亡した後の次順位の受益者について規定することになります。

マウナケア山頂(ハワイ島)

更に次順位の受益者が受け取れる受益権の割合を規定する。

意向書では、委託者兼当初受益者が死亡した後に受益権を受け取れる次順位受益者を決めますが、そのような次順位受益者が複数いる場合、それぞれの次順位受益者が受け取れる割合についても意向書(Letter of Wishes)に規定しておきます

次順位受益者が2名なら50%:50%とする場合もあるし、60%:40%70%:30%など別の割合にすることもできます。

同じく3名なら各自1/3ずつ、とすることもあるし、50%:25%:25%としたり、40%:30%:30%などとすることもあります。

どのような割合にすることも可能ですが、当然ながら各自の割合の合計は100%としなければなりません。

場合によっては次順位受益者として家族2名に40%ずつ慈善団体や公益法人に残り20%を割り当てるなど、家族以外の第三者を次順位受益者に指定することも可能です。

委託者兼当初受益者と次順位受益者の死亡の順序の問題に注意

次順位の受益者を指定するときに注意すべき点は、委託者兼当初受益者と次順位受益者の死亡の順序の問題です。

一般的には資産を保有する親自身が委託者兼当初受益者で、その配偶者や子などが次順位受益者になることが多いでしょう。おそらく通常の信託では

委託者兼当初受益者次順位受益者(配偶者・子)その次の世代(孫など)

の順序で死亡することを念頭に置いているでしょう。

しかし、人生は何が起きるかわかりません。配偶者が先に死亡する場合もありますし、不幸にも子が親よりも先に亡くなってしまう場合もあります。

そういった場合に備えて、次順位受益者を指定する場合、

  • 委託者兼当初受益者(親)次順位受益者(配偶者・子)より先に死亡する場合と、
  • 次順位受益者(配偶者・子)委託者兼当初受益者(親)より先に死亡する場合

それぞれについて、別々に規定しておくことが望ましいのです。

道路に流出した溶岩(ハワイ島)

次順位受益者(子)が孫を残す場合とそうでない場合についても規定

さらに言うと、子供も成人したら結婚し、孫が生まれることもあります。しかし必ずしも

委託者兼当初受益者(親)次順位受益者(子)第3順位受益者(孫)

の順に死亡するとは限りません。

次順位受益者(子)委託者兼当初受益者(親)第3順位受益者(孫)

の順に死亡することだってあり得ます。さらに具体的に考えると

  1.  次順位受益者(子)が結婚する前に死亡してしまう場合
  2.  次順位受益者(子)が結婚したが孫を残さずに死亡してしまう場合
  3.  次順位受益者(子)が結婚してさらに孫を残して死亡してしまう場合

など、色々なパターンがあります。
したがって可能であれば、それぞれのパターンについて場合分けして意向書に記載することが望ましいのです。

意向書(Letter of Wishes)と遺言書の違い(意思無能力)

このように書いてくると、皆さんもお気づきの通り、意向書(Letter of Wishes)に記載する内容は遺言書に記載する内容にかなり類似していることに気づくと思います。

確かにその通りですので、皆さんがよくご存知の遺言書を作成する要領で意向書を作ればおおよそ間違いはありません。

しかし、意向書には一点だけ遺言書と違う点があります。それは「意向書には受益者が意思無能力(成年被後見)状態になった場合の規定を記載することができる点」です。信託(Trust)は遺言と異なり、作成者(委託者)の生前から発効するため、このようなことが可能なのです。

信託の最大の特徴かつ長所は、委託者兼当初受益者(或いは次順位以降の受益者)(以下では併せて受益者といいます。)が生存中に意思無能力(成年被後見)状態になっても継続して信託財産を管理し続けられる点です。

通常の海外信託(裁量信託)では、プライベートバンクや法律事務所の提携先のトラスト会社が受託者になります。したがって、受託者が意思無能力(成年被後見)状態になることはありません。
このため、信託財産を永続的かつ安定的に受託者に信託しておくことができます。

他方で受益者になるのは、資産家やその家族らといった個人(自然人)ですので、意思無能力状態になるリスクが常に付きまといます。

そこで、財産を信託(裁量信託)した場合、受益者が意思無能力状態になった時に、どういう形で信託財産を管理・処分するかを意向書で決めておくことが必要になるのです。

意向書(Letter of Wishes)における意思無能力の場合の規定の仕方

例えば、

委託者兼当初受益者自らが意思無能力状態になった場合、自らの生活費、医療費、税金等の必要経費と家族の生活費、税金等の必要経費を信託財産から支出して欲しい

ということをあらかじめ意向書で指定しておくことができます。

さらに、受託者が「意思無能力状態」を認定するためには、必ずしも裁判所による成年後見人選任命令までは必要とせず、いずれかの国の資格を有する医師による診断書1通を受託者に提出することで足りる、などと規定しておくこともできます。

このように明確にしておくことで「意思無能力状態」になったかどうかを判断するために、裁判所での成年後見人選任といった面倒な手続きが不要となります。

その結果、より柔軟かつ迅速に不測の事態(受益者が意思無能力状態になること)に備えることができます

以上のように、受益者が意思無能力状態となった時にも継続して信託財産が管理・処分されるように、予め意向書に規定しておきます。
裁量信託においては、このような指針を受託者に示しておくことで、委託者兼当初受益者が安心して財産の管理を受託者に任せられるのです。

意向書(Letter of Wishes)について、以上をまとめると

以上の通り、裁量信託(Discretionary Trust)を設定する際に必要となる意向書(Letter of Wishes)の内容について説明しました。受託者に完全な裁量がある裁量信託だからこそ、その裁量権行使の指針となる意向書(Letter of Wishes)がとても重要となります。

意向書(Letter of Wishes)に記載するべき内容を理解しておくことで、資産家=委託者兼当初受益者が安心して裁量信託を設定することができるのです。

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古錆びた難破船(ラナイ島・ハワイ州)

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 ㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
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 ㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
 ㉚裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)の活用法  

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