⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
更新日:2020.6.24
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目次
香港の相続制度は歴史的に英米法(プロベート)と同じ
香港は英語圏ですが、19世紀にイギリスの植民地になったためイギリスと同じ系統の法制度(英米法)を導入しています。
1997年に香港の施政権が中国に返還された後も、香港基本法のもとでこの制度が基本的に50年間維持されることが約束されています。
従って現在の香港法は『英米法』に属します。
英米法の相続制度は各国同士大体同じですから、以下に説明する香港法の話は、他の英語圏(英連邦や米国各州)についても大体当てはまります。
私は香港の弁護士なので、ここでは日本人が香港に財産を残して亡くなった場合の相続手続の話をします。
結論から言うと、例えば日本人がHSBC銀行などの香港の銀行口座(香港所在の財産)を残して亡くなると、日本での相続手続きのように相続人全員で遺産分割協議書を作成するだけでは口座残高の払戻しを受け取ることはできません。
たとえ遺産分割協議書を英語で作ったとしてもだめです。
香港の裁判所に対して『プロベート』の申立てを行って、『人格代表者』が『Grant』といわれる一種の裁判所の命令を貰わないと、口座払戻などが受けられません。『プロベート』すなわち『Grant』の取得は遺言がある場合、遺言がない場合でも必ず必要です。
その理由は日本と英米法の相続制度の根本的な違いによるのですが、法律的な難しい話はテーマ⑦からテーマ⑨で説明していますので、ここでは省略します。
遺言が無い場合は遺族の誰かが人格代表者となる
遺言がない場合の『プロベート』では、ご遺族(法定相続人)のいずれかの人が、『遺産管理人(Administrator)』という『人格代表者(Personal Representative)』として、香港の裁判所に申し立てを行います。
遺言がある場合、通常は『遺言執行者(Executor)』が『プロベート』を申し立てます。
いずれの場合でも申し立てが認められると、裁判所から相続財産を管理する『Grant』と呼ばれる一種の権限授与の証明がもらえます。
外国人のプロベート申立ては弁護士代理が必要
日本人の場合、すなわち香港にとっての外国人の場合、裁判所に相続人本人が申し立てることは認められておらず、必ず弁護士を代理に立てて申し立てなければなりません。
香港のプロベートは香港法の弁護士しか代理できませんので、当然ながら日本の弁護士、税理士、司法書士、税理士では申し立てできません。
同様に、ほかの英米法の国でも、その国の資格を持った弁護士しか申立代理できません。
このプロベートをやらないと香港では正式な相続手続きを進められないため、香港にある故人の銀行口座残高の払戻などをするには、必ず香港の弁護士に依頼してプロベート申立てをしなければなりません。
日本人のプロベートには日本と香港双方の弁護士が必要
さらに言うと、日本人のプロベート申立てでは、日本の法律と香港の法律両方が関わってきます。
これは、日本人は死亡時の『本拠地(Domicile)』が日本にあると認められるケースが多く、相続財産(動産)の準拠法として日本法が適用されるためです。
もしも日本人が香港や海外の永住者となっていて、『本拠地(Domicile)』が日本ではなく香港などあった場合は日本法は関係が無くなります。例えば香港永久居民を取って長年香港に住んでいた日本人が亡くなる場合などですがが、このようなケースは比較的稀です。
結局のところ、多くのケースでは日本人の香港財産の相続手続きをするためには、香港の弁護士に加え、日本の弁護士の関与が必要になります。
香港の弁護士を見つける方法は、インターネットで探すこともできますが、知り合いの日本の弁護士や税理士に適切な香港の弁護士を見つけてもらう方法もあります。
プロベートのための香港の弁護士を探すときに注意すべきなのは、実は香港の弁護士にとっても外国人(すなわち日本人)のプロベートというのは、結構『レアなケース』だということです。
プロベート専門の香港弁護士でも、日本人の香港のプロベート手続きをやったことがない人がほとんどです。そのような香港弁護士に頼むと、結果として手続きに非常に時間がかかってしまいます。
日本の相続制度(戸籍、相続放棄、遺言)と香港の相続制度の食い違い
例えば、日本の相続には香港と違って戸籍制度、相続放棄、公正証書遺言などの制度があります。
これらの制度が日本にあることを知らない香港の弁護士が担当すると、日本人の弁護士との間でコミュニケーションの食い違いが生じます。そのせいで、相続手続きが非常に遅延します。
逆もまた同様です。香港の相続制度を知らない日本の弁護士が担当すると香港のプロベート手続きが非常に遅延することになります。
そこで、双方の法律に通じており、このようなケースの経験が豊富な弁護士に依頼するのがいいのです。
一応手前味噌ですが私自身も、日本人の香港財産の相続手続きを過去に多数行っていますので、こういったケースの取扱いに慣れております。
シンガポール、オーストラリア、イギリス、アメリカも同様
ちなみに『プロベート』の相続制度は、香港以外の英語圏(英米法)、たとえばシンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アメリカ(ルイジアナ州以外の49州)などでも大体同じです。
なぜなら、それらの国々は、『英米法』という元をただせばイギリスの法制度と同じ法律の仕組みを採用しているからです。
逆に台湾、韓国、中国、タイなどは日本と同じく『大陸法』で『英米法』に含まれないので、香港(英語圏)とはかなり違った相続制度になっています。
以上のとおり、日本人が香港に銀行口座などの財産を持ったまま亡くなった場合、
① 香港でプロベートが必ず必要なこと、
② 日本と香港双方の弁護士が必要になること、
③ 日本人のプロベートを多く扱ったことがある日本か香港の弁護士に依頼すべきこと、
をよく覚えておいてください。
プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)
香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)
プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)
海外の信託(Trust)に関する記事はこちら↓
㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~
㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
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