日本人弁護士(日本・香港・NY州)による国際相続・海外企業法務

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香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
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㉝ 香港の相続(プロベート)手続の概要(全体)

更新日:2023.12.28

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今回は、私、弁護士絹川が最も多く遭遇する国際相続のケース、主に『日本人の香港でのプロベート手続』について、全体像を網羅的に解説していきたいと思います。細かい点については文中の関連記事をリンクからご参照いただければと思います。

目次

相続(プロベート)手続とは?

すでに何度か解説しておりますが、香港を含む英米法(コモン・ロー)の国・法域では、日本のように『遺産分割協議書』を作成するだけでは相続手続を進められません。
ある人(被相続人)が亡くなった場合、遺言があっても無くても、『プロベート手続』と言われる裁判所での手続をする必要があります。
そのような裁判手続きのことを、本コラムでは『プロベート』と呼ぶことにします。

遺言がある場合もプロベートが必要

『プロベート(Probate)』を辞書ソフトなどで日本語に訳すと『検認』と翻訳されます。
例えば日本でも自筆証書遺言を作った場合、家庭裁判所で『検認手続』をすることになります。
しかし、日本の『検認手続』と香港の『プロベート』は本質的には異なります。したがって上記のような辞書的な翻訳(Probate=検認)は一種の誤訳であり、混乱のもとになりますのであまり気にしないでください。

端的に言うと日本の『検認手続』は、「自筆証書遺言が遺言者本人によって作成されたことを確認し、その状態を保存するための手続き」です。

他方で香港の『プロベート』は、
遺言がある場合は、その遺言によって指定された遺言執行者(Executor)の就任を裁判所が確認しお墨付きを与えるための手続きです。
遺言が無い場合は、法定相続人の中から被相続人の遺産を管理する『遺産管理人(Administrator)』を選任して権限を付与するための手続きです。

したがって、香港(その他コモン・ロー圏の国・法域)では、遺言があろうとなかろうとプロベート手続は必要になります。いずれにしても日本の『検認手続』とは趣旨が異なります。

香港の遺産税(Estate Duty)の手続き

香港では、日本で言うところの相続税にあたる『遺産税(Estate Duty)』がだいぶ前(2006年2月11日)に廃止されました。
したがって、最近発生した相続では香港税務当局(IRD)での遺産税(Estate Duty)の納付手続きは必要ありません。
しかし、稀に2006年2月10日以前に亡くなった方のプロベート手続をすることがあります。その時は、プロベート手続をする前に香港での遺産税(Estate Duty)の手続き(『Estate Duty Clearance』の取得)が必要になります。

財産が少額の場合の手続き

後で述べる通り、香港のプロベート手続は結構大変で、時間と手間と費用が掛かってしまいます。
香港法では、一定の少額財産の場合に、相続人は正式なプロベート手続をしなくてもよいことになっています。

具体的には、5万香港ドル以下の現金または預金だけが相続財産の場合、『民政事務総署(Home Affairs Department)』にConfirmation Noticeの取得を申し立てることで、プロベート手続に代用することができます(民政事務総署HP参照)。
もっとも、私自身、これまで日本人の香港財産の相続で『Confirmation Notice』の取得の代理をしたことはありません。一般的な日本人の場合、国際私法(国際相続)の問題があるので、恐らくConfirmation Noticeの取得手続きを利用することは難しいでしょう。

また、それとは別に『簡易遺産管理(Summary Administration)』という簡易・迅速なプロベート手続の制度もあります。具体的には15万香港ドル以下の現金または預金だけが相続財産の場合、Official Administratorが遺産管理人となることで、一般的なプロベート手続よりも簡易・安価・迅速に相続手続ができます(Probate and Administration Ordinance (Cap. 10))。
これについても、私はこれまで担当したことはありませんが、Confirmation Noticeの取得と同様、一般的な日本人の場合、国際私法(国際相続)の問題があるので、恐らく『簡易遺産管理(Summary Administration)』の手続きを利用することは難しいでしょう。

香港にある財産とは

さて、香港のプロベートをしないと相続手続ができない『香港の財産』とは、具体的にどういった財産のことを言うのでしょうか?具体的には下記に列挙できるような被相続人の財産のことを言います。

・ 香港に店舗(支店)がある銀行又は証券会社で開設した銀行または証券口座の残高
・ 香港内にある不動産の所有権
・ 香港に店舗(支店)がある保険会社の保険契約(但し、受取人の指定がない場合に限る)
・ 香港居住の個人又は法人に対する債権
・ 香港居住の個人又は法人に対して負っている債
・ 香港域内にあるその他の動産等 

もしも亡くなった方の遺言、身の回り品、通信その他から、上記のような財産があることが分かった場合、香港に財産があるということで、香港プロベートが必要になるということを覚えておいてください。

香港の財産に関する情報収集

「そもそも、被相続人から生前聞いていた話しなどから、香港に被相続人の財産があることが分かっているが、その財産の詳細や残高が分からない」という相談を相続人からよく聞きます。

そのような場合、銀行口座・証券口座・保険契約であれば、その金融機関に残高照会請求をかけます。香港法人株式であれば、法人登記を取って株主かどうかを確認します。不動産であれば、その不動産の住所からたどって不動産登記情報を取得します。債権や債務の場合は、会社の決算書や財務諸表などから確認することもできます。
その他『香港の財産』の探し方についてはこちらの記事もご覧ください。

このような情報収集の段階から、日本の戸籍等を翻訳するなど、色々な対応をせねばなりません。
私の事務所でも、まず「プロベートをするか否か」を判断する前提として、まずは『香港の財産情報調査のみ』から対応することもできます。

プロベートの適切な弁護士の選び方

香港の弁護士は、日本と違って比較的『専門分化』が進んでいます。企業法務、金融法務に特化している弁護士と、プロベートを対応する弁護士では、専門性が全く違います。
プロベートはどちらかというと個人向けの法律実務です。プロベートをしたい場合は、プロベートなどの個人資産分野を専門にしている香港のプロベート弁護士(ソリシター)に依頼する必要があります。

また香港のプロベート専門弁護士でも、必ずしも日本人が関わるプロベートを扱ったことがない人も多数います。日本人のプロベートでは、必然的に『国際私法』が関わってきますので、日本の弁護士の関与が不可欠です。

したがって、日本人の香港財産のプロベートについては、単なる「香港のプロベート弁護士」ではなく、「国際相続案件を複数扱っているプロベート弁護士」に依頼することが大切です。
日本人の弁護士でもそのような人は何人かいます。私絹川は、これまでGrantを取得したものだけでも30件以上日本人の香港プロベートを扱っておりますので、そのような香港のプロベート弁護士の中でも経験値は高い方だと思います。

プロベートにかかる弁護士費用と費用対効果の検討

先に述べた通り、日本人の香港プロベートでは、日本の弁護士と香港の弁護士の両方に依頼して手続を進めなければなりません。したがって、一般的な香港人のプロベートよりも余計に弁護士費用が掛かってしまいます

財産の内容や、家族事情の複雑さ、予め準備できる書類の多い少ない、色々な要素によって、作業量や弁護士費用が大きく変わってきます。
一般的な観点で言うと、どんなにシンプルなケースでも、日本の弁護士と香港の弁護士を併せて200万円くらいの弁護士費用はどうしてもかかってしまいます。
そうすると、『香港の財産』がさほど大きくない場合、上記の弁護士費用をかけると費用倒れになってしまいます。

そこで、プロベートを開始する前にどれくらいの財産があるのかをあらかじめ調べることはとても重要です。そのため「香港プロベートをやるか否か」を決める前に、まず『財産調査だけ』を依頼して、取得できる財産の目途を立てておくことはとても重要です。

誰が遺産管理人(Administrator)候補者(依頼者)になるべきか

香港に十分な財産があるとわかってプロベートをやる場合、実際には誰が依頼者となって弁護士(香港のプロベート弁護士)に依頼すべきでしょうか?

遺言がある場合、「遺言執行者(Executor)」が弁護士に手続代理を依頼します。
遺言がない場合、「遺産管理人(Administrator)となろうとする者」が、遺産管理人候補者、として弁護士に手続代理を依頼することになります。

誰が「遺産管理人(Administrator)になるべきか?」という質問について、結論から言いますと「一番被相続人に近い立場の相続人(親族)」が依頼者として遺産管理人候補者となるべきでしょう。
 配偶者がいれば配偶者が、
 配偶者がいなければ子供が、
 配偶者も子供もいなければ生きている親のいずれかが、
 それらいずれもいなければ生きているきょうだいのいずれかが、といった感じです。

これは香港のプロベート規則(Non-Contentious Probate Rules(Cap. 10A)21条)で「遺産管理人候補者となれる者」の優先順位が決められているからです。

もしも、優先順位が低い相続人が『遺産管理人候補者』となる場合、優先順位が高い相続人から「辞退(Renunciation)」の宣誓署名を取得することが必要になります。この宣誓認証には費用が掛かってしまうので、できれば避けたいところです。
上記のような観点で、遺産管理人候補者(依頼者)になる人を相続人の中から決めることになります。

未成年者とプロベート

未成年の相続人がいる場合、一定の配慮が必要です。
というのも、香港のプロベートにおいて、未成年者は「自己判断権がない者」とされてしまうため、その未成年相続人の代わりに手続関与する遺産管理人を選任しなければならないからです。
そのような未成年者の代理人には、遺産管理人候補者とは別の人物がならなければなりません。

例えば、未成年者の母親(被相続人の妻)が遺産管理人候補者としてプロベート手続に関与する場合、母親は「未成年者相続人の代理人として」あプロベートに関われません。そのような場合、例えば成人である親戚、祖母、親しい友人、などに、未成年者の代理人として一定程度プロベート手続に関与してもらうことになります。

プロベート手続の全体の流れ

プロベートの開始から終了までのプロベート手続全体の流れを説明すると以下の通りです。

ココでは分かりやすく、香港の遺産が銀行口座残高だけの場合を例にとります。

 ① 戸籍、死亡届記載事項証明等の取得・翻訳・アポスティーユ取得
 ② 銀行への残高照会(香港財産の特定)
 ③ (日本の弁護士による)日本法意見書の作成
 ④ 遺産管理人候補者(遺言執行者)による申立書類の宣誓認証
 ⑤ 書類一式をまとめて香港の裁判所(Probate Registry of High Court of Hong Kong)に提出
 ⑥ 申立後の裁判所からの各種質問照会(Requisition)への対応
 ⑦ 裁判所による権限付与命令(Grant)の発行
 ⑧ Grantとともに、各種銀行等へ、残高払戻等の指示・連絡
 ⑨ 遺産管理人名義の日本の銀行口座に残高の着金

以下では、これらの手続きを順を追って進めていくことにします。

本人(相続人)が用意すべき書類・情報

前項で説明した手続の内、依頼者(遺産管理人候補者)が準備するべき点は

 ④遺産管理人候補者(遺言執行者)による申立書類の宣誓認証
 ⑧各種銀行等へ、残高払戻等の指示・連絡のために必要となる遺産管理人による宣誓認証文書の作成

の2点です。その他、被相続人のパスポート又は香港IDカードがあれば、それのコピーを提出する必要があります。もしもなければ、改めたパスポートを取得する必要があります。
これら以外の書類は、ほぼすべて日本又は香港の弁護士の方で対応することができます。

香港のプロベート裁判所への書類提出、裁判所とのやり取り、銀行とのやり取りなどは、すべて香港の弁護士が対応します。したがって、依頼者(遺産管理人候補者)自身は一度も香港に渡航することなく、手続を完了させることができます。

日本の弁護士が担当する作業・書類

日本の弁護士が対応すべき点は、以下の点です。

 ① 戸籍、死亡届記載事項証明等の取得・翻訳・アポスティーユの取得
 ③ 日本法意見書の作成
 ④ 依頼者(遺産管理人候補者)の宣誓認証作成支援
 ⑥ 香港の裁判所からの日本法に関する各種質問照会(Requisition)への対応
 その他、香港弁護士と日本人依頼者、相続人との各種連絡

上記各作業を、なるべく迅速かつ効率的に処理していくことになります。翻訳、死亡届記載事項証明の取得、アポスティーユは、通常の弁護士業務ではあまりやらないので、慣れないと面倒です。これらの形式面に不備があると、何度もやり直しとなって、時間と費用が無駄になってしまいます。

また、③日本法意見書の作成は、全て英語で日本の民法、通則法、その他関連する法律について解説する文章を起案することになります。
⑥裁判所からの質問照会については、日本法についての細かい点を条文を示して回答していくことになります。特に、遺言があるケースでは、日本と香港の遺言制度の違いから、裁判所からの質問照会が多くなりがちです。

細かな点ですが、身分証明書(日本の弁護士であることの証明)については、日弁連から英文身分証明書を取得することで対応します。

翻訳についてのキーポイント

日本の戸籍、死亡届記載事項証明書、(遺言がある場合の)遺言書は、全て英語に翻訳して提出しなければなりません。
私も何度か経験がありますが、香港の裁判所(Probate Registry)は、非常に形式に細かく、杓子定規です。翻訳についても、一部でも翻訳漏れがあると、質問照会(Requisition)が何度も繰り返されてやり直しになってしまいます。

一例をあげると、戸籍の欄外余白に手書きで書き込まれた挿入文や印影もしっかりと翻訳に反映しないと、質問照会(Requisition)を受けてしまう、というような感じです。

また、日付や氏名、住所にも表記に齟齬があるとやり直しになります。例えば、「慎太郎」を「shintaro」と訳すか「shintarou」と訳すかの違いにも細かく指摘が入ります。
基本的にはパスポートでの氏名のスペル表記に統一することをお勧めしています。

宣誓認証文書のキーポイント

宣誓認証は、日本の公証役場か、香港のソリシター事務所で行います。
私(絹川)は香港にしばしば出張するので香港ソリシター事務所で宣誓認証を行います。日本で宣誓認証を行う場合は、日本の公証役場で行います。

日本の公証役場のうち東京・大阪・神奈川など一部の都府県(外務省HP参照)では、宣誓認証、公証人押印証明、アポスティーユの3段階をワンストップで行っています。
そうでない公証役場では、公証人押印証明を法務局で、アポスティーユを外務省で、別々に行わなければなりません。その為、アポスティーユ取得までに2週間くらいかかってしまうこともあります。

アポスティーユについてのキーポイント

アポスティーユは、日本外務省が「日本の公文書である」ということを確認するための紙を公文書に添付する手続きです。「外国公文書の認証を不要とする条約(ハーグ条約)」の締約国に提出する場合、必要となります(ハーグ(アポスティーユ)条約の締約国)。
香港も日本もアポスティーユ条約締約国(法域)なので、香港の裁判所に提出する戸籍、死亡届記載事項証明、宣誓認証文書(日本法意見書含む)は全てアポスティーユを添付する必要があります。

遺言がある場合の香港プロベートでは、遺言自体に遺言執行者が宣誓署名しなければならない関係で、色々と面倒なやり取りがあることは別のコラム記事(参考)で説明しました。

遺産管理人(Administrator)候補者(依頼者)による宣誓認証

申立書類については、遺産管理人候補者(依頼者)自身が、公証役場で宣誓認証をやらなければなりません
筆者は通常沖縄にいるため、遠隔地の依頼者の場合、電話等でやり方を伝え、公証人にも趣旨を伝えておかないと手続きがうまくいきません。
公証人の中でもあまり英文の宣誓認証になれていない人の場合は、全ての申立書面の日本語訳を要求することもあります。
このようなこともあるため、宣誓認証手続きは、依頼者に任せきりではうまくいきません。

したがって、宣誓認証については日本の弁護士の方で取り仕切った方がうまくいくことが多いでしょう。

私(絹川)の場合、東京、大阪、神奈川などに、いくつか「行きつけ」の公証役場を持っております。
こういった英文書類の宣誓認証になれた公証人を最初から指名して進めることで、無用な混乱や手間を避けるようにしています。

保証人による担保金の提出と免除

日本人の香港プロベートをする際に、裁判所から「保証人による担保金(Surety’s Guarantee)」の提出が要求されます。
海外在住の遺産管理人候補者の場合、何か不備があって賠償責任が発生した場合、その責任を担保するための保証のため要求されているものです。
これについては、相続人それぞれから一定の同意書を得られることで担保金の提出の免除を受けることができます。

逆に、この書類を出さないと香港の財産額に応じた担保金(或いは担保業者からの保証状)を提出しなければならなくなるため、費用が掛かってしまいます。

香港の弁護士(ソリシター)が担当する作業・書類

上記12項から18項までの作業をすべて終えた後、香港の弁護士が香港の裁判所に申立て書類一式を提出することになります。

香港の弁護士が主に担当するのは、

 ② 銀行への残高照会(香港財産の特定)
 ⑤ 申立書類の提出
 ⑥ 裁判所からの質問照会(Requisition)の回答、連絡
 ⑧ 権限付与状(Grant)取得後の銀行への残高払戻のためのやり取り

となります。これらの作業について、依頼者と香港弁護士が何度もやり取りをしていくことになりますが、いくつか専門的な質問や面倒な準備が必要になります。
したがって、依頼者と香港弁護士の間に日本の弁護士(或いは香港プロベートに通じた各種士業)等の専門家が入ることが望ましいのです。

申立後の流れ

申立(申立書類一式の提出)が終わると、3-4週間で香港裁判所から何らかの反応があります。
その中には質問照会(Requisition)も含まれます。コロナ期間中は裁判所の業務が停滞したため2-3か月程度かかっていたこともありました。

申立に問題が無く、質問照会(Requisition)が出なければ、早ければ申立後2-3か月程度で権限付与状(Grant)が発行されます。

 ・ 遺言がある場合の権限付与状(Grant)を『Grant of Probate(遺言検認状)』
 ・ 遺言がない場合の権限付与状(Grant)を『Grant of Letter of Administration(遺産管理状)』

と言います。本コラムでは、両者を総称して『権限付与状(Grant)』ということにします。また、

 ・ 遺言がある場合の権限付与状(Grant)を受けるのは『Executor(遺言執行者)』
 ・ 遺言が無い場合の権限付与状(Grant)を受けるのは『Administrator(遺産管理人)』

と呼びます。『Executor(遺言執行者)』と『Administrator(遺産管理人)』を総称して『Personal Representative(人格代表者)』と呼びます。一応名称として覚えておいてください。

質問照会(Requisition)について

香港のプロベート裁判所(Probate Registry)は、若手の法曹実務家又は裁判所クラークが担当しています。そのせいかわかりませんが、申立書類に対する質問照会(Requisition)は非常に細かい点に及びます。

「細かすぎて失笑モノ」の質問照会(Requisition)もありますが、短気に怒ってはいけません。
香港の弁護士と協力してまじめに一つ一つ回答し、場合によっては翻訳や意見書、宣誓認証文書を作り直して、しっかり対応していくことになります。

どうしても質問の趣旨が分からない場合は、香港の弁護士から電話で裁判所担当者に確認することもできます。

権限付与(Grant)の発行について

遺言がある場合の権限付与状(Grant)を「Grant of Probate(遺言検認状)」と言います。具体的には、遺言書原本に裁判所が権限付与状(Grant of Probate)を発行した旨の押印をすることで付与します。

遺言が無い場合の権限付与状(Grant)を「Grant of Letter of Administration(遺産管理状)」と言います。具体的には、遺産管理人候補者が提出した申立書類に裁判所が権限付与状(Grant of Letter of Administration)を発行した旨の押印をすることで付与します。

これら「権限付与状(Grant)」の原本は一通しか発行されませんので、非常に重要です。
香港でのプロベート手続が終わった後も、依頼者(遺産管理人)の手元で原本を大切に保管しておくことをお勧めします。

権限付与(Grant)取得後の手続き①(法人株式の譲渡)

権限付与状(Grant)を取得した後、具体的な名義移転等の事務手続きを開始することができます。

香港の遺産に香港法人の株式が含まれていた場合、被相続人名義の株式を、遺産管理人、又は遺産管理人が指定する別の者の名義に移転する必要があります。
別の記事(コラム㉛参照)で説明した通り、香港法人の株式を名義移転するためには、譲渡人と譲受人が『譲渡証書(Instrument of Transfer)』等に署名して、香港の税務局(IRD)で印紙税(Stamp Duty)の納付手続きをして株主名簿を書き換えねばなりません。

権限付与状(Grant)の付与を受けた遺産管理人は、被相続人に代わって株式名義の移転をすることができます。具体的には、遺産管理人譲渡証書(Instrument of Transfer)に「被相続人の遺産管理人として」署名することで、名義移転が可能になります。

相続による名義移転の場合、通常の売買と違って香港の印紙税(Stamp Duty)が安くなります。

権限付与(Grant)取得後の手続き②(不動産の譲渡)

香港の遺産に香港の不動産が含まれていた場合、被相続人名義の不動産を、遺産管理人又は遺産管理人が指定する別の者の名義に移転する必要があります。

一般的に香港の不動産を名義移転するためには、譲渡人と譲受人が『売買契約書(Sale and Purchase Agreement)』や『譲渡証書(Assignment)』等に署名して、香港の税務局(IRD)で、印紙税(Stamp Duty)の納付手続きをして、土地登記所で名義を書き換えねばなりません。

権限付与状(Grant)の付与を受けた遺産管理人は、被相続人に代わって不動産の名義移転をすることができます。具体的には、相続によって遺産管理人の名義にするためには、『Assent』という書類を権限付与(Grant)とともに土地登記所に提出することで名義移転ができます。相続による名義移転の場合、通常の売買と違って香港の印紙税(Stamp Duty)が安くなります。

権限付与(Grant)取得後の手続き③(銀行口座・証券口座払戻、解約)

一番よくある相続手続が、銀行口座や証券口座の払戻しのケースです。
被相続人名義の銀行口座は、残高を一つの通貨に両替して、遺産管理人名義の口座に送金してもらう必要があります。具体的には、権限付与状(Grant)と、残高の送金指示の宣誓認証文書を銀行に提出します。
もしも遺産管理人が香港に銀行口座を持っている場合は、その口座に外貨のまま送ってもらうことができます。

証券会社の口座を持っている場合、一般的には死亡時に保有していた株式をいったん換金してから日本の遺産管理人名義の銀行口座に送ってもらうことになります。
もしも遺産管理人が香港の証券会社に口座を持っていたら、払戻をせずに株式をその口座に移管してもらうこともできます。

銀行口座払戻の場合の注意点

銀行口座払戻の場合、銀行はあくまで「遺産管理人名義」の口座にしか払戻してくれません。

例えば日本で遺産分割協議書を作成しており、香港の口座残高を遺産管理人(例えば被相続人の妻)ではなく、別の相続人(たとえば被相続人の子)が受け取る旨合意があった場合でも、香港の銀行口座残高は、一旦「権限付与状(Grant)」を取得した遺産管理人の口座に送ってもらう必要があります。

また、そもそも香港の銀行でも各銀行ごとに取扱いが異なっております。ある銀行で必要なかった書類を、別の銀行では要求される、ということも起こります。

結論として、銀行の手続きについては、基本的には権限付与状(Grant)があれば進められるが、各銀行異なる場合があることを覚えておいてください。

遺言がある場合のプロベート

前述の通り、遺言がある場合でも、香港のプロベートは回避できません。

香港プロベートでは、遺言書が日本語で作成されている場合、その遺言書の翻訳(英語)を提出しなければなりません。また、日本法の方式の遺言書(公正証書遺言、自筆証書遺言)は、香港法の遺言方式と大きく異なっており、香港の裁判所の理解を得るのがなかなか困難です。

したがって、日本法の方式で日本語で遺言が作られているような香港プロベートの場合、遺言がない場合の香港プロベートよりも却って手続きが面倒になることがあります。

そういった観点で、私(絹川)は別の記事(コラム㉜参照)でも、財産が所在する国(法域)ごとに別々に遺言を作ることをお勧めしています。

国際私法とプロベートの関係

日本人が香港に財産を持ったまま亡くなった場合、日本法(日本人)、香港法(香港所在の財産)という複数の国の法律関係が関与します。こういった問題を解決する枠組みを『国際私法』と言います。

日本人の香港プロベートは、必然的に国際私法が関わってきます。
日本法だけ、香港法だけ、いずれか一方の法律だけでは解決できない問題を、国際私法の枠組みで判断し、解決していくことになります。

日本では、『法の適用に関する通則法』が、国際私法の内とくに「準拠法選択」の場面を規律する法律となります。

香港では主に判例法(「コモン・ロー」といいます)により、複数の国の法律同士の抵触の問題を規律しています。

香港プロベートについても複雑な国際私法の問題が関わります。

ここでは詳細の説明を割愛しますが、日本人の香港プロベートについては、香港の判例法、日本の通則法、それぞれを勘案した結果、日本法か香港法いずれかの法律を準拠法として、相続(プロベート)問題を解決することになる、ということを理解しておいてください。

香港以外の海外財産と香港プロベート

香港以外の海外にも財産を保有している日本人の方が亡くなった場合、香港以外の国でもプロベートが必要になります(コラム⑧参照)。

仮に香港以外の一定の国(参照)でプロベートをしていた場合、香港のプロベートを「Reseal(追認)」という比較的簡単な手続きで進めることができます(Probate and Administration Ordinance Cap. 10、Part IV)。

この「Reseal(追認)」が使えない場合、プロベートを各国で一からやり直さなければなりません。

ただし、英米法(コモン・ロー)の国のプロベート手続は、大体香港のプロベートと類似しています。

したがって、日本以外の複数の国に相続財産が分散していると、本コラムに記載したような香港におけるようなプロベート手続を、各国で別々に進めなければなりませんので、非常に面倒です。

プロベートにかかる時間

プロベート手続は、裁判所の手続きの前に準備すべき書類や集めるべき財産情報などが多数あります。

したがって、どんなに効率的に進めても最短で8-9か月程度かかってしまいます
一般的なケースでは、依頼開始から残坂商会、権限付与状(Grant)の取得を経て、銀行口座残高の払戻を終えるまでで、おおよそ1年はかかってしまいます。
多重相続や、複雑な問題がかるケースでは2年以上かかることもあります。

プロベートにかかるおおよその費用

前述の通り、一般的な観点で言うと、どんなにシンプルなケースでも150万円~200万円くらいの弁護士費用はどうしてもかかってしまいます。そうすると、香港所在の財産がさほど大きくない場合、上記の弁護士費用をかけると費用倒れになってしまいます。

そこで、どれくらいの財産があるのかをあらかじめ調べることはとても重要です。そのため、「香港プロベートをやるか否か」を決める前に、財産調査だけを依頼して、取得できる財産の目途を立てておくことはとても重要です。

プロベートの回避方法

上記のような、手間、時間、費用の点で負担が重いプロベートをできれば回避するのが望ましいでしょう。
生前であれば、プロベートを回避するための予防手段がいくつかあります。その中には、ジョイントアカウント(Joint account共同名義口座)であります。
また、信託(Trust)もプロベート会費の一つの手段です。これらの詳細については別のコラムに書いておりますので、よろしければご参照ください。

最後に

以上が香港のプロベート全体についての概要になります。

香港のプロベートに遭遇することは、一般の方であれ、専門家であれさほど多くないと思います。
私(絹川)は、香港の弁護士として活動している関係上、非常に多くの日本人の香港プロベート案件を扱っております。

これまでのプロベートでは、残高の払戻までを確実に完了させております。
もしも香港のプロベート、生前相続対策でお困りごとがありましたら、下記のコンタクトより、お気軽にお問い合わせください。

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香港法、国際相続がらみのご相談はこちら

プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
 ⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
 ⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
 ⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)

香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
 ⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
 ⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
 ⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
 ㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)

プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
 ⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
 ⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
 ⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
 ⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)

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