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香港(永住権保有)在住・日本人弁護士による国際企業法務・相続・資産管理

香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
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㉜ 日本の公正証書遺言の香港プロベート実務の問題点

更新日:2023.12.20

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さて、私の事務所でも、「日本の公正証書遺言が存在する場合の香港プロベート」の依頼が時々あります。
以前の記事で、日本と海外(例えば香港)に財産がある場合、日本の財産については日本方式の遺言を、香港の財産については香港方式の遺言を作ることをお勧めしました。
今回は、なぜそのように考えるのか、について、日本の遺言がある場合の香港プロベートの実務を紹介しながら解説したいと思います。

事例(公正証書遺言)

死亡した被相続人は日本人で日本居住だったが、生前香港に金融資産を持っていた。
余命が短いことを悟り、急いで遺言を作ることにしたが、日本国内の病院に入院していたため、日本方式の遺言(公正証書遺言)を作成した。その遺言の中で、香港の金融資産についても受贈者を定めた。

このような場合、相続人や遺贈者はどういった手続きをすればよいか。

遺言があってもプロベートは必要

これまでプロベートの解説記事で述べてきた通り、香港所在の財産については、香港の裁判所でのプロベートが無ければ、口座払戻手続ができません。
公正証書遺言は、日本法によると、裁判所の検認(英語では「Probate」と訳される)が必要ないとされています。
しかし、香港においては日本の検認の要否とは関係なく、必ず香港プロベートが必要になります。
では、実際に公正証書遺言を香港でプロベートする場合、どういった手続きになるのでしょうか?

香港方式の遺言(比較のため)

比較のために香港方式の遺言があった場合のプロベートについて簡単に解説します。

香港方式の遺言は、遺言作成者が署名し、その署名を2名の立会人が見届けて署名する必要があります。遺言書原本は遺言作成者が保管するか、作成した時の法律事務所で保管をします。
遺言者が死亡すると、遺言で遺言執行者に指名された人が、その「遺言書原本」に署名して、他の必要書類(死亡証明や家族関係の証明など)とともに香港の裁判所に提出して、遺言検認状(Grant of Probate)の付与を申し立てることになります。
実際には、裁判所に提出した遺言書原本に、裁判所の登記官がスタンプを押して返送することで、遺言検認状(Grant of Probate)の付与が、完成することになります。

香港プロベートでは遺言書原本提出が必要

以上の手続きの通り、香港のプロベートでは、遺言検認状(Grant of Probate)を受けるべき『遺言書の原本』を香港の裁判所に提出することが求められます。
これらとの関係で、日本の公正証書遺言について香港でプロベート手続をしようとする場合、いくつかの問題があります。

問題①「原本の提出」

一つ目の問題は「原本の提出」です。
公正証書遺言の原本は、実は公証役場に保管されており、公証役場外に持ち出すことは法律上原則として禁止されています(公証人法25条)。
このため、本事例のようなケースで香港裁判所に公正証書遺言の「遺言書原本」を香港裁判所に提出することは事実上できなくなってしまいます。
しかし、この点は、日本法の下では公正証書遺言原本を香港裁判所に提出することはできない、という説明とともに、公正証書遺言の正本又は謄本(原本、正本、謄本の違いはこちらなどをご参照ください)を香港裁判所に提出することでクリアできます。

香港、佐敦道周辺

問題②「遺言公正証書への署名(宣誓認証署名)」

二つ目の問題は「公正証書遺言(正本又は謄本)への署名とその宣誓認証」です。
以前のコラムでも説明した通り、香港の裁判所に提出する申立書等の署名文書は、全て「宣誓認証」としなければなりません。更に公証人の押印証明について日本外務省の発行するアポスティーユ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000548.html)を添付しなければなりません。

先程説明した通り、香港のプロベートでは遺言執行者が遺言自体に署名して裁判所に提出しなければなりません。したがって、公正証書遺言正本や謄本に遺言執行者が署名をして、その署名について公証人の宣誓認証を受ける必要があります。
ところが、そもそも公正証書遺言自体が公文書であり、そこに遺言執行者自身が署名を書き足すことは、一種の「公文書変造」にあたるのではないか、という疑問が生じます。
本当はそういうものではないのですが、少なくとも宣誓認証を担当する公証人や、アポスティーユを担当する外務省の職員にはそのような疑問が生じることがよくあります。

この点、「香港の裁判所に提出する関係上、公正証書謄本自体に遺言執行者が署名せざるを得ない」とか、そのような文書を公文書として利用するのではなく、あくまで私文書として使用するのである」などと弁護士から、公証人や外務省に説明して何とか説得するしかありません。
最悪の場合、上記日本側の事情を香港の裁判所に説明して、公正証書遺言書の謄本自体には署名できないので、公正証書遺言書の謄本のコピーに署名して提出する形で代用できないか、という交渉をすることになります。

私の場合はいずれかの方法で、結局は香港の裁判所に受け付けてもらうことができました。
いずれにしても、日本の公証人、外務省の担当者、香港の裁判所のプロベート担当官の個別の判断や見解が絡んできていて、毎回コミュニケーションが錯綜します。
担当者が変わると前回のやり方が、必ずしも通じないことも多々あります。
「公正証書遺言(正本又は謄本)への署名とその宣誓認証」が、このような面倒な問題を引き起こしてしまうため、プロベート手続に余計な費用と時間と手間がかかってしまいます。

香港、青衣上空

問題③「遺言執行者が法人である場合」

最後に、遺言執行者として選任を受けた者が法人である場合の問題があります。
たとえば日本の公正証書遺言では、遺言執行者に弁護士や司法書士などの専門家を指名するケースが良くあります。「個人として」の弁護士や司法書士が遺言執行者に任命されている場合はさほど問題ありません。

しかし時々「○○弁護士法人」や「司法書士法人○○」などの『専門家法人』を遺言執行者として任命するケースがあります。このような場合、香港の裁判所にプロベート(遺産けん引場付与)の申立てを行うのは、個人ではなく、そのような専門家法人となります。

法人がプロベート申立てを行う場合、香港の裁判所に、法人登記簿などの資格証明書を提出しなければなりません。

しかし、香港では遺言執行者に法人を任命できるケースが、遺言による信託などで「信託会社」(Trust Corporation)を遺言執行者に任命する場合などに限られています(Non-Contentious Probate Rules (Cap.10A), 34条(3), Trustee Ordinance (Cap. 29), 29条)。それ以外のケースでは、法人が遺言執行者になることが認められていないのです。

このため、香港の「信託会社」(Trust Corporation)ではない日本の弁護士法人や司法書士法人が「遺言執行者」として香港のプロベート(遺産けん引場付与)の申立てを行うと、当然ながら香港の裁判所から、NGが出ることになります。

筆者もそのようなケース(公正証書で司法書士法人が遺言執行者として任命されていたケース)を扱ったことがあります。その時は結局、司法書士法人としてのプロベート申立てをあきらめ、司法書士法人の代表社員(「個人として」の司法書士)を、司法書士法人の代理人として見立てて、その上でその司法書士個人を申立人として香港のプロベートの申立てを行う、という回りくどいやり方をすることでこの問題クリアしました。

以上の説明はやや実務的に過ぎて、一般の方々からしたら理解しにくい部分も多いかもしれません。

まとめると

長々と書いてきましたが、結局皆様に理解してもらいたいのは、

要するに「香港の財産について日本方式で遺言を作ってしまうと、香港のプロベート(遺産検認状付与)の申立てを行う際に、いくつかの非常に面倒な問題をクリアしなければならないので、気を付けましょう」ということです

これまで私が担当したケースでも結局においては香港のプロベートで検認状付与(Grant of Probate)を受けることはできてきているのですが、そのための費用、時間、手間が余計にかかってしまったということをご理解いただければと思います。

このような実務経験があることから、私としては、

日本と香港に財産を持っている方がこれから遺言を作る場合、日本の財産は日本方式の遺言、香港の財産は香港方式の遺言、というように分けて遺言を作成することをお勧めしております。

以上が、日本の公正証書遺言がある場合の香港プロベートのあらましでした。

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香港、天壇大仏周辺

プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
 ⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
 ⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
 ⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)

香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
 ⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
 ⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
 ⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
 ㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)

プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
 ⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
 ⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
 ⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
 ⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)

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