㉛ 香港法人株式の相続とプロベートについて
更新日:2023.5.9
今回は、故人(日本人)が香港法人の株式を保有したまま亡くなった場合、香港法人株式をどのように相続すべきか、について解説します。
一般的には、日本人の相続の場合であっても、香港の裁判所でプロベートが必要となるでしょう。
また、人格代表者が管理している限りはStamp Dutyは掛かりませんが、第三者にその株式を売却する場合には、Stamp Dutyが発生します。
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最近、私(絹川)の元に寄せられるご相談に、父親(故人 日本人)が香港法人の株式を保有したまま亡くなってしまった、といったものが複数ありました。そのような場合に、ご遺族(相続人)は、適切に株式を相続するためにどのような手続きをしなければならないでしょうか?
目次
香港の株式譲渡の手続き一般
株式相続の前提として、一般論として香港法人の株式(株主)の名義移転がそもそもどのようなシステムで管理・運営されているかについて説明します。
ここでは分かりやすくするため、いわゆる私的会社(Private company)の株式譲渡について説明します。(その他の香港法人の種類についてはこちらをご参照。)
- 香港では、株主数が50名以下で、株式譲渡について制限(株式譲渡について取締役会又は株主総会の承認が必要となる等)がある会社を私的会社(Private company)として、そうではない公的会社(Public company)と区別しております。多くの日本人が香港法人を経営する場合、(上場をするのでは無ければ)いわゆる私的会社(Private company)を利用することになります。
会社秘書という役員(コモンロー系法域に共通)
私的会社(Private company)の株主名簿は、会社の役員(機関)の一つである会社秘書(Company Secretary)によって管理されています。
たとえば、
A株主がB株主に株式譲渡をする場合、
A株主及びB株主が、株式譲渡証書等(Instrument of Transfer及びSold/Bought Notes)を締結した上で、
会社秘書に対して株式譲渡証書等を提出して名簿書換と新規株式証明書の発行を請求します。
会社秘書によって株主名簿が書き換えられて初めて正式に株式譲渡が完了したことになります。
一般的にはStamp Duty納付手続きが必須
会社秘書に提出する前に、株式譲渡証書等を香港の税務当局であるIRDに提出し、Stampを押印してもらう必要があります。
Stampを押印してもらう際に、Stamp Duty(印紙税)をIRDに納付しなければなりません。
印紙税を納付して初めて株式譲渡証書等にStampが押印され、そのStampが押された株式譲渡証書等を会社秘書に提出して初めて株主名簿の名義移転が実行されるのです。
このように、(売買や贈与による)通常の株式譲渡手続きでは、Stamp Dutyの納付が必要になります。
相続による株式名義移転は特殊
他方で、相続による株式の名義移転はどうでしょうか?
株主が死亡した場合に、相続人がどのように株式の所有名義人となるかについては、まずは定款の記載を参照します。
一般的な定款には、
「死亡した株主の人格代表者(Personal Representative)の指示に従って、(被相続人の)株式名義を移転する」
と規定されています(香港の私的会社の模範定款65条「Transmission of Shares」参照)。
人格代表者( Personal Representative)とは
では、この「人格代表者(Personal Representative)」が何を意味するか、ですが、
日本法では「人格代表者」という概念がそもそもありません。
他方で、香港法を含む英米法圏では、人格代表者(Personal Representative)というのは、「死亡した人に代わって遺産を関する管理権限を行使する者」のことを言います。
遺言が無い場合の人格代表者は「遺産管理人(Administrator/ Administratrix)」と言い、
遺言がある場合の人格代表者は、「遺言執行者(Executor/ Executrix)」と言います。
通常、遺産管理人も、遺言執行者も裁判所において権限を付与されてから(これを「Grant」と言います)、人格代表者としての権限を行使します。
プロベートは人格代表者への権限付与の手続きに相当
この「裁判所からの権限付与(Grant)」を取得する手続きが、すなわちプロベート(Probate)なのです。
日本では、英米法圏と違って、そもそも人格代表者という概念がないため、プロベート(Probate)という手続きもないのです。
香港のプロベートの詳細な説明については、このページ末尾のリンクをご参照ください。
日本人が香港法人を残して亡くなった場合とプロベートの要否
では、亡くなった人が日本人であった場合に、日本人の相続人が人格代表権者となる(その上で株式の名義移転をする)ためには、香港でのプロベート手続をした方が良いのでしょうか?
一般的な回答としては、香港でのプロベート手続を行って、香港の裁判所から正式に人格代表者としての権限付与を受けた方が良いでしょう。
プロベートで香港の裁判所から人格代表権の付与の命令書(Grant)を受け、
その命令書を示して、会社秘書に対して株式名義を相続人のいずれかの者に名義移転するように指示するのです。
香港の裁判所から権限の付与(Grant)がないと、会社秘書が人格代表者かどうか判断できず、手続きがスムーズに進まない可能性があります。
相続による株式の移転とStamp Dutyの要否
なお、相続による株式名義の移転(Transmission on Deathと言います)においては、通常の株式譲渡同様にStamp Dutyを支払う必要があるのでしょうか?
答えは「No」です。相続による株式名義の移転(Transmission on Death)では、Stamp Dutyの納付は不要です。
株式名義の移転(Transmission on Death) があると、
一般的には、株主名簿上、被相続人名義の株式は人格代表者によって管理されていることが記録されます。
ただし、人格代表者がその株式を第三者に売却する場合は、依然としてStamp Dutyの納付手続きは必要です。
例えば、仮に第三者に対して被相続人名義の株式を譲渡したい場合、(亡くなった)被相続人の代わりに人格代表者が株式譲渡証書等の署名を行い、これをIRDに提出してStamp Dutyを納付しないと、株式名義を移転できません。
以上が、日本人が香港法人の株式保有したまま亡くなった場合の、相続手続のあらましでした。
プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)
香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)
プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)
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