⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)
更新日:2020.6.24
テーマ⑲では、生前相続対策として『プロベートを回避する方法』について説明しました。今回は資産管理会社を活用することで『ある程度』プロベート回避ができることについて説明します。
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目次
資産管理会社を使うことで「一定程度」プロベート回避
資産管理会社を持つ、ということは自分名義の資産が資産管理会社名義になることを意味します。
しかしながら、資産管理会社に財産を保有させてみても資産管理会社の株主は自分自身ですから、結局、個人資産が銀行口座や不動産の形から、会社の株式の形に変わるだけです。
依然として「資産管理会社の株式」の形で財産を持っているので、株主が亡くなると資産管理会社の株式が相続財産となります。
その株式の所在地(具体的には資産管理会社を設立した国)が英語圏(英米法の国)の場合、プロベート手続きをしなければ相続人に引き継ぐことはできません。
英語圏といいますが、米国、英国、香港やシンガポールだけでなく、英領ヴァージン諸島(BVI)、ケイマン諸島等のいわゆるオフショアといわれるタックスヘイブン地域にある資産管理会社であっても同様です。
資産管理会社をどの国に作ろうとも、その国での株式の相続手続き(プロベート)を避けることはできません。
ただ、資産管理会社をうまく活用することで、各国のプロベート手続きの負担を減らすことはできます。
どういうことかというと、
たとえば香港に住んでいる人が香港とBVI、ケイマンにそれぞれ資産管理会社を持っているとします。
そのまま亡くなると、香港とBVI、ケイマンそれぞれでプロベートをしなければなりません。
他方、生前のうちにBVIやケイマンにある会社を香港の子会社にしたとします。
すると、BVIやケイマンの株式の名義人は香港法人となりますから、個人(故人)の財産ではなくなります。
個人として直接所有するのは香港の資産管理会社の株式だけになります。
そうすると、プロベートは香港だけで行えばいいことになるのです(BVIやケイマンでは不要)。
各国の資産管理会社を一つの統括会社の下にぶら下げる
要するに、香港法人を統括会社(ホールディング会社)のような立場にして、その下に各国資産管理会社(場合によったら株式以外の各国財産も)をぶら下げてしまうのです。
なお、この統括会社(ホールディング会社)は、別に香港でなくとも別の国の会社でも構いません。
この状態で株主個人が亡くなると、確かに依然として香港の資産管理会社株式についての香港プロベートは必要ではあります。
しかし、BVIやケイマンのプロベートは不要です。なぜならBVIの株式もケイマンの株式も香港法人が名義人ですから、故人(被相続人)はそれらの国に相続財産を持っていないことになるからです。
このように資産管理会社(統括会社)を活用することで、故人名義の資産を極力一か所(国)に集めることができます。
そうすると、プロベートしなければならない国が一つだけに減りますから、財産所在国すべてでプロベートをするよりも、相続手続きの費用・手間・時間を相当節約することができるのです。
資産管理会社(統括会社)とトラストを組み合わせる
更にテーマ⑲で説明した通り、統括会社(ホールディング会社)となった香港法人の株式をトラスト(Trust)することで、この香港法人の株式自体についても『プロベート』を回避することもできます。
但しトラスト(Trust)してしまうと原則として自己の財産から切り離されてしまいますので、財産管理や運用についての自由度が一定程度下がってしまいます。
自由度を高く保ったままトラスト(Trust)をする方法もあります。ここでは詳細は割愛しますが、そういうトラストを裁量信託(Discretionary Trust)といいます。
もちろんトラスト(Trust)設定自体には税務の問題が関わりますので、事前に税理士等による検証は必要です。
価格の大きな財産をもつ資産管理会社の株式については、適切な専門家のアドバイスを受けながら、そういった特殊なトラスト(Trust)を活用しつつ財産保有者の希望に沿ったトラストを設計していくことをおススメします。
以上のとおり、生前相続対策として、
資産管理会社を作り、資産管理会社の資本関係を組み替えて統括資産管理会社(ホールディング会社)を作ることも一つの案となることを説明しました。
これにトラスト(Trust)などの別の制度を合わせ活用することで、より一層効率的な生前相続対策をすることもできます。
プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)
香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)
プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
海外の信託(Trust)に関する記事はこちら↓
㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~
㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
㉙裁量信託の意向書(Letter of Wishes) に書き込む内容について
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