㉒海外の信託(Trust)について①~信託の歴史~
更新日:2020.9.17
テーマ⑲でも少し触れましたが、今回からいくつかは海外の信託制度(Trust)について何回かに分けて説明していこうと思います。
香港法、国際相続がらみのご相談はこちら
目次
海外信託(Trust)を日本語で調べることは難しい
テーマ⑲では海外の信託(Trust)はコストがかかるが有効なプロベート回避手段になる、と説明しました。
海外に大きな財産を持つ日本人にとって、海外信託(Trust)は検討の価値がある制度です。
もっとも、海外信託(Trust)を日本語でわかりやすく説明した資料がネットや文献でもあまりありません。
本コラムでは、海外の信託制度(Trust)をできる限りわかりやすく説明することにトライしていきたいと思います。
なお、日本の信託と海外の信託(Trust)は共通する部分もありますが、必ずしも同じではありません。
そこで、混乱を避けるため、ここからは海外の信託については信託(Trust)と記載するようにします。
信託(Trust)の歴史の起源はイギリスから
まずは日本の信託と海外の信託(Trust)の違いや関係を理解するために、信託全般についての大雑把な歴史から入りたいと思います。
日本では2007年に大正時代以来84年ぶりに信託法が改正されました。
改正後10年以上経過した現在、日本ではこの信託法改正の影響で、相続や生前の財産管理・承継の文脈で「信託」とか「家族信託」という言葉がより一般的に使われるようになりました。
日本の信託(家族信託)は「委託者(財産保有者)の保有する財産を、受益者(財産保有者自身やその家族など)のために管理するなど一定の目的のために、受託者に託して保有させる」という形式をとります。
「信託とは(財産を)信じて託すること」などとも説明します。
一般的に信託は「委託者・受益者・受託者という三者が関わる財産保有形態」というところに特徴がありますが、これは元々英米法(コモンロー)、特にイギリスで発展した「Trust」という法制度に起源があります。
歴史の話をすると長くなってしまうのですが、
信託(Trust)は、もともと中世イギリスの封建領主が、十字軍(11-12世紀頃)などの海外遠征で長く留守にしたり、遠征中に領主自身が死んでしまう可能性を考えて、外地に遠征していても確実な形で残された子孫に財産(封建領土など)を受け継がせるための制度
として利用され、発展してきました。
イギリス⇒米国⇒(明治・大正時代)日本、と伝わる
その信託(Trust)制度が、イギリスの植民地だった米国にも持ち込まれました。
米国では封建領主の家産の承継ではなく、主に合衆国西部など未開拓地域の開発のための資金調達手段として信託(Trust)を加工した商事信託制度が発展しました。
その後、これが明治・大正期の日本にも持ち込まれ、日本の旧信託法(1922年(大正11年))の元での「信託」になりました。
旧信託法の下、日本では信託銀行を中心として、投資信託など比較的高利な安定的貯蓄手段の提供のために「信託」が利用されてきました。
ところで、実は明治以前の日本にも「受益者など一定の目的のために受託者に財産を託して保有させる」という信託に近い制度もあったようです。
江戸時代の秋田に救貧や飢饉対策の役割を果たす「秋田感恩講」という制度がありましたが、これもその一つです。 また、最近では「殿、利息でござる!」という阿部サダヲが主演の映画がありましたが、
これは18世紀仙台の宿場町で有志が集めたお金を藩に貸して利息を取り、それを伝馬役のために使うという実話をもとにしたものですが、一種投資信託のようなアイデアが反映されているように思います。
余談が長くなりましたが、要するに、
日本の「信託」は、英米法の「信託(Trust)」に起源があること、
イギリス⇒米国⇒日本、と伝わる歴史の中で各地の事情に応じて制度自体も変わってきていること、
をご理解いただければ十分です。
もっとも「委託者・受益者・受託者という三者が関わる財産保有形態」という基本的な構造はどの国でも共通しております。
必ずしも、海外信託(Trust)=日本の信託ではないことに注意
こういった歴史を踏まえ、以後のコラムでは海外の信託(Trust)制度を説明する際に、
①日本の信託とは違う設計ができること、
②とりわけ日本の起源となっている英米法(コモンロー)の信託(Trust)制度は先進的でバラエティに富んだものがあること、
を説明します。
海外の信託(Trust)制度を知ることは、日本人が海外財産の生前相続対策を講ずる際に非常に参考になることを念頭においていただければと思います。
以上の通り、今回は日本の信託と英米法の信託(Trust)の歴史と相互関係について説明しました。
次回以降、海外の信託、特に英米法の信託(Trust)について、日本の信託との比較しつつ説明していきたいと思います。
プロベート全般に関するその他の記事はこちら↓
⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
⑧相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(2)(国ごとのプロベート)
⑨相続手続きに関する日本法と英米法の根本的な違い(3)(プロベートの順序)
香港特有のプロベートに関する記事はこちら↓
⑩香港では遺産分割協議書だけでは相続できない(プロベートが必要)
⑮香港のプロベートにかかるおおよその時間
⑯香港の銀行・証券会社への口座残高の照会は結構難しい
㉗事例紹介:公正証書遺言のプロベート(香港の場合)
プロベートの回避方法・生前対策に関する記事はこちら↓
⑪香港の生命保険契約がある場合、プロベートは全く必要ない?
⑫(銀行・証券会社)ジョイントアカウントにはプロベートは不要
⑲海外財産の生前相続対策(1)(極力プロベートを回避すること)
⑳海外財産の生前相続対策(2)(資産管理会社について)
海外の信託(Trust)に関する記事はこちら↓
㉓海外の信託(Trust)について②~海外信託の利用~
㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~
㉘裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)
㉙裁量信託の意向書(Letter of Wishes) に書き込む内容について
㉚裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)の活用法
琉球法律事務所(日本・沖縄弁護士会) +81-98-862-8619 ホームページはこちら
Fred Kan & Co.法律事務所(香港) +852-2598-1318 ホームページはこちら
メールでのお問合せ info@silk-stream.com