日本人弁護士(日本・香港・NY州)による国際相続・海外企業法務

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日本人弁護士(日本・香港・NY州)による
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香港(永住権保有)在住・日本人弁護士による国際企業法務・相続・資産管理

香港で、日本人・日本企業が関係する国際企業法務・国際取引契約・国際相続・海外資産管理の実績(全国対応)を多数有する弁護士の絹川恭久です。

日本、NY州及び香港3つの法曹資格を持ち、日本(15年以上)と香港(5年以上)でそれぞれ実務経験を持っております。
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㉔海外の信託(Trust)について③~信託の種類~

更新日:2021.4.28

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海外信託(Trust)の分類について説明します

テーマ㉓では、資産承継の文脈で海外の信託(Trust)が利用される意図や目的を紹介しました。今回は、信託(Trust)、特に英米法の信託(Common Law Trust)、を実際に利用する場面で重要となる信託(Trust)の各種分類について説明していきます。

信託(Trust)の起源は英米法、特に英国法にあると説明しました(テーマ㉒参考)。
歴史的な起源が英国法に由来するため、英以外の英米法の国(例えばシンガポール、香港、オーストラリア等の旧英国植民地)は、現在でも信託(Trust)の根本構造は英国法のものとほとんど同じです。
そこで、英米法で信託(Trust)を知ろうとする場合、ほとんどが英国の制度を勉強することになります。

筆者も香港で信託(Trust)法の教科書などを使って勉強しましたが、これにより英米法の全ての国の信託(Common Law Trust)法を一度に勉強できるので非常に有用でした。

ビクトリア湾(香港)

英米法の国々同士は、国(法)が違っても信託(Trust)制度は互いに似ている

皆様にも『英米法の信託(Trust)は各国ごとに微妙な違いがあるけど、根本構造はほとんど同じ』であると理解していただければと思います。
したがって、これから書く内容は、香港のみならずほとんど全ての英米法の国の信託(Trust)でも当てはまります。

資産管理の文脈で英米法の信託(Trust)の種類として特に知っておくべき点は、次の二つの分類です。
 ① 撤回可能信託(Revocable Trust)と撤回不能信託(Irrevocable Trust)
 ② 固定信託(Fixed Trust)と裁量信託(Discretionary Trust)

撤回可能信託(Revocable Trust)と撤回不能信託(Irrevocable Trust)

まず①の撤回可能信託/撤回不能信託ですが、これは読んで字のごとくで、一旦設定した信託(Trust)を事後的に撤回できるものと、撤回できないものを分ける分類です。
『撤回(Revocation)』とは、要するに一旦受託者の名義に移した信託財産を、「やっぱりやめた」として元の所有者(委託者)に復帰し、信託(Trust)が最初からなかった状態に戻してしまうことです。

この『撤回ができる信託=撤回可能信託』は、元の所有者(委託者)から見ると「信託財産はいつでも自分の手元に戻せるもの」ということになります。
『撤回ができない信託=撤回不能信託』は、元の所有者(委託者)から見ると「信託財産はもはや受託者の名義になってしまい、自分の手元には戻せないもの」ということになります。

専門家向けの文章ではないのでここでは詳述しませんが、上記二通りの理解の違いから、税務上の扱いも撤回可能信託・撤回不能信託で異なってきます。

固定信託(Fixed Trust)と裁量信託(Discretionary Trust)

次に②固定信託(Fixed Trust)・裁量信託(Discretionary Trust)です。

固定信託(Fixed Trust)は、信託契約の時点で信託の『受益者(Beneficiary)』や『受益権の内容(Beneficial interest)』を固定してしまい、『受託者(Trustee)』が単独で受益者や受益権内容を変更できない信託(Trust)を意味します。事後的に変更するためには関係当事者全員で信託契約の変更合意を締結し直す必要があります。

裁量信託(Discretionary Trust)は、(一定の制約はありますが)信託の『受託者』が受益権の内容、さらには誰を『受益者』に含めるか/除外するかを『裁量』で決められる信託です。
予め受託者に裁量権が与えられているので、事後的に信託契約を変更せずとも『受託者』が単独で『受益者』や『受益権内容』を変更できます。

簡単に言うと、裁量信託は信託(Trust)設定した後もフレキシブルに内容を変更できる信託であると理解しておけば十分です。

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税務上の取扱いも、「固定信託は事後的に受益権が変更しないもの」、「裁量信託は事後的に受益権が変更しえるもの、不確定なもの」という理解をして、別個に扱います。

なお、裁量信託(Discretionary Trust)には、受託者に裁量権を与えながらも委託者兼当初受益者の意向を反映させるため、意向書(Letter of Wishes)というものを信託証書(Trust Deed)とは別に作成しますが、この点はテーマ㉙において詳述します。

「どういう目的で信託を活用するのか」が重要

税務上の取扱いも重要ですが、どのような種類の信託を作るかにおいて一番重要なのは、資産保有者がどういった目的で信託(Trust)を設定したいかということです。

資産保有者がどのような形で資産管理をしたいか、によってこの①撤回可能信託・撤回不能信託、②固定信託・裁量信託の二つの分類を使い分けることになります。

例えば、一定の財産を自分の財産から切り離してしまい、生前贈与のような形で妻や子供に渡してしまいたい場合は撤回不能信託や固定信託を利用することが適しているでしょう。

他方、委託者兼当初受益者が死ぬまでは財産を自分の自由に使いたいが、自分が死んだ後に妻や子供に自分の財産を確実に渡したいときは撤回可能信託や裁量信託を使った方が良いかもしれません。

生きている間は気が変わることもあるし、夫婦が離婚したり、子供と関係が悪化することもありますからね。

資産保有者の個別のニーズをしっかり聞き取ったうえで信託の種類を選ぶ

これらはあくまで一例です。資産管理を考える資産保有者にはそれぞれ多様なニーズ(目的)があります。
信託(Trust)は財産の名義を移転をしてしまうため、重要な権利変動を伴うものです。目的と合致しないのに間違った形で信託設定するのは避けなければなりません

したがって「一般論ではこの信託を設定すべき」というものではなく、それぞれ資産保有者個人のニーズ(目的)を十分に踏まえて適切な形で信託(Trust)を設定しなければなりません

信託(Trust)は多数の種類があって複雑なものです。
信託(Trust)を設定しようとする場合、資産保有者の側にも正しい制度理解が求められます。

ここに書いた①撤回可能信託・撤回不能信託、②固定信託・裁量信託というの二つの分類方法も、その他多数ある信託(Trust)の分類や種類の一例にすぎません。

信託を設定する場合、信託設定者=委託者兼当初受益者は自ら信託(Trust)制度をしっかり理解し、適切なカスタマイズ設計を行うことを心掛けてください。
その際に我々弁護士などの専門家の支援もしっかり活用することをお勧めします。

今回は信託(Trust)の分類、とりわけ①撤回可能信託・撤回不能信託、②固定信託・裁量信託の、二つの基本的な分類方法についてご説明しました。まだまだ奥が深いので、次回以降も引き続き信託(Trust)を扱っていきたいと思います。

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 ⑦相続手続に関する日本法と英米法の根本的な違い(1)(プロベートが必須)
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 ㉙裁量信託の意向書(Letter of Wishes) に書き込む内容について
 ㉚裁量信託(Discretionary Trust)と意向書(Letter of Wishes)の活用法

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